プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

世界金融不安  円高株安の連鎖再び? 根本に過剰ドルと投機的取引

2007-11-11 19:27:13 | 政治経済

11月9日のニューヨーク株式市場は、大企業で構成するダウ工業株平均の終値が前日終値より223.55ドル安い1万3042.74ドルまで下げた。7日に360ドル下げてから3日連続の下落で、米低所得者向け(サブプライム)住宅ローン問題による信用不安で急落していた8月下旬以来の低水準になった。一方、ニューヨーク外国為替市場の円相場は、米景気の先行き不安の高まりで円が一時、1ドル=110円50銭前後まで上昇し06年5月中旬以来1年半ぶりの円高ドル安水準をつけた(「朝日」11月10日10時04分)。米国での信用力の低い個人向け高金利型(サブプライム)住宅ローンの焦げ付き問題に端を発した国際金融市場の動揺がなかなか収まりそうにない。

現在の、ドルを国際決済通貨(基軸通貨)とする世界の経済体制を確立したのは、第二次大戦末1944年にアメリカで開かれた国際的な「ブレトンウッズ会議」である。ブレトンウッズ体制は、ドルを国際決済通貨と定め、世界(西側)の主要通貨はすべてドルに一定の固定相場でペッグされ、ドルが1オンス35ドルの固定価格で金につながる「準金本位制」だった。同時にペッグを維持できなくなった国に緊急融資する機関として、IMF(国際通貨基金)が作られた。ブレトンウッズ体制は1972年、ニクソン政権の米政府がドルと金の両替停止を宣言した「ニクソン・ショック」まで続いた(田中 宇「ドルは歴史的役目を終える?」2007年11月6日)。

一国の国内通貨を世界通貨とすることは、当初より矛盾があった。流動性を確保し、世界貿易を活発にするためには、ドルが世界に散布されねばならず、これは、アメリカが意図的に輸入や経済援助を増やし、国際収支を赤字にしなければならないことを意味する。終戦時には大きな黒字だったアメリカの国際収支は、1958年には赤字になり、その後は日独などからの輸入が増え、経常収支の赤字が拡大した。その後も、アメリカは赤字を拡大し、世界にドルを流出させたおかげで、世界経済は成長し、貿易量は増え続けたが、同時にドルの刷りすぎ状態がひどくなり、インフレや金相場の値上がりが起きた。「準金本位制」を維持するためには、ドルをアメリカの金保有量に見合う限度内の発行量にとどめておくことが必要だったが、ドルはアメリカの金保有量に見合う額を大きく超えて増刷され続け、アメリカの経常赤字は増加し、アメリカからの金の流出も止まらず、ついに1972年に、ニクソン大統領が金とドルとの交換停止を宣言して、ブレトンウッズ体制が終焉した(田中 宇 同上)

基軸通貨を持つ国は、世界に通貨を流通させる必要があり、経常収支を赤字にせざるを得ないが、度を越して赤字を増やすと通貨に対する信用が落ちて相場が下がり、インフレになるというジレンマがある。米政府は、このジレンマを軍事力を背景とした支配力で他国経済を犠牲にすることによって乗り切ってきた。ドルを基軸通貨として維持するために為替相場や金利水準をアメリカに都合がいいように強制的に調整することが繰り返しおこなわれた。しかし、EUが独自通貨をもち、中国、ロシア、インド経済などが台頭してくるなかで、いつまでドル支配を維持できるか―国際金融市場はドルに対する信用不安と常に隣合わせにおかれているのだ。

このような環境下で、勃発したのが、サブプライム・ローン問題である。
米国では一般に、証券や不動産などが資産運用の手段になっている。特に、この間の好景気の中では、「投資」目的の住宅需要が増え、「住宅バブル」の様相を呈していた。住宅市場が活況を呈する中で、米国の住宅ローン会社は、住宅の値上がりを前提にローンを増やし、2004年ごろから金利上昇でプライム・ローンの伸びが鈍ると、融資条件を緩和して、信用力の低い高金利型サブプライム・ローンを大幅に拡大した。さらに、膨らんだサブプライム・ローンは、債権を担保に証券化され、住宅ローン担保証券など債務担保証券として売り出された。こうして、住宅ローン会社の融資リスクが証券購入者に転嫁されていった。もともとの資産が不良債権になれば、高金利商品として買った債券が暴落することになる。
金融市場は今、グローバル化していると同時に、ヘッジファンド(投機的基金)の増大にみられるように投機化している。有価証券取引の三割は、ヘッジファンドが取り扱っているといわれている。高利回りの証券はヘッジファンドを中心に、各国の銀行や証券会社などに広く浸透した。さらに、これらを購入しているヘッジファンドに投融資している金融機関もあり、その広がりは予測がつかない(「しんぶん赤旗」2007年8月18日)。

過剰ドルと投機的取引―円高株安の連鎖が再び起きても不思議ではない。アメリカ経済を中心に組み立てられた投機的取引を野放しにするマネー資本主義の限界が見え始めたということだ。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。