プロメテウスの政治経済コラム

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NY原油、135ドル突破   情報不足と投機筋に翻弄される原油市場

2008-05-22 18:31:19 | 政治経済
21日のニューヨーク商業取引所(NYMEX)の原油先物相場は、米国の原油在庫の大幅減少を受けて需給逼迫懸念が一段と強まったことに加えて、ドル安進行で急騰した。米国産標準油種WTI(ウェスト・テキサス・インターミディエイト)の中心限月7月物は同日夜(日本時間22日午前)の時間外電子取引で、史上初めて1バレル=135ドルを突破し、一時135.04ドルまで急伸。前日記録した取引途中の史上最高値129.60ドルを大きく塗り替えた。原油高騰は、ガソリンや航空燃料などエネルギー価格の上昇を招き、家計や企業活動を大きく圧迫している。原油につられて金や白金、大豆、トウモロコシなど商品相場全体も過熱気味で、インフレ高進は、低成長が続く米国だけでなく、世界経済の重しとなる可能性が大きい(時事通信2008/05/22-10:33)。

夏のドライブシーズンを目前に控えて、米国内の原油在庫が前週比540万バレルの大幅減となったことで、夏場のガソリン供給への不安が台頭。さらに米景気の先行きに対する懸念から円やユーロなど主要通貨に対してドル売りが加速したため、ドル建てで取引されている原油価格の割安感が増し(ドルが2002年当時の価値を保っていれば、少なくとも原油相場は今より1バレル当たり25ドル安かったはずとIMFは試算している)、市場に投機資金が流入した。原油の高騰は、ガソリンや燃料価格の上昇を通じて家計や企業活動に悪影響を及ぼしている。原油高が引き金となる形で、大豆、小麦、トウモロコシなどの穀物価格を含む商品市場全体の高騰が続いており、世界経済に与える悪影響が懸念される(「毎日」5月22日10時55分配信) 。

エネルギー情報サービスを提供する米プラッツ(ザ・マグロウヒル・カンパニーズの事業部門)の主任エコノミスト、ラリー・コーン氏によると、最高級原油でも、その実際の生産コストは1バレル当たり70~80ドル程度にすぎない。つまり今の価格には“市場のリスクプレミアムと思惑買い分”として約50ドル以上が加算されていることになる(Peter Coy/Business Week誌・経済担当エディター「原油価格が“一寸先は闇”なのはなぜ?」NBonline2008年5月22日)。

国際石油価格は、アメリカの代表的な原油であるWTIの石油先物の価格で決まる。WTIの先物は、ニューヨーク商品取引所(NYMEX)に上場しているが、同じ先物商品は、ロンドンにあるICE(Intercontinental Exchange)という企業が運営するネット上の先物取引市場でも取り引きされており、アメリカのヘッジファンドや投資銀行は最近、ニューヨークのNYMEXだけでなく、ロンドンのICEを通じて、さかんにWTI先物を買い、原油価格を高騰させている。投機で原油をつり上げたい米投機筋(ヘッジファンドや投資銀行)は、ロンドンのICEで先物を売買し、米当局の目を盗んで意図的に原油価格をつり上げ、ぼろ儲けしているという(田中宇の国際ニュース解説「石油高騰の謎」2008年5月14日)。

世界的に石油の需給関係を分析する有用なデータがないことが、原油価格の先行き不透明感に拍車をかけている。今後3~4年間で相場が200ドルにまで暴騰するのか、80ドルにまで暴落するのかは、誰にも分からない。正確性に欠ける統計データでも、それ以外に頼る情報がないと、投機筋を通じて、市場に大きな影響力を与える(生産・消費が伸びているOECD非加盟国のデータは信用するのにはほど遠い。特に問題なのが中国だ。米国に次ぐ世界第2位の石油消費国に成長した中国市場の実態を示す統計資料は存在しない)。
エネルギー分野を専門とする米投資銀行シモンズ・アンド・カンパニー・インターナショナル(本社:テキサス州ヒューストン)のマット・シモンズCEO兼会長は、「手元のデータは不確実だが、相場の見通しはある意味で末恐ろしい」と言う。同氏は今後半年~4年の原油価格を200~500ドルと予測する。その一方で、米リーマン・ブラザーズのアナリスト、エドワード・モース氏は、原油市場が「データ欠乏症」にかかっているという点で、シモンズ氏と同意見だ。しかし、原油価格のオーバーシュート(行き過ぎ)は「根本的に誤った見方」が原因で、来年には現行価格の3分の1安の83ドルまで下がる可能性があると5月9日付リポートで述べている(Peter Coy 同上)。

「実体経済から独立した金融・投機活動」によって実体経済が振り回される現代資本主義を正常化するためには、国際的な市場規制が求められる。市場原理主義による資本主義の止揚が現実の課題となる日は、意外と近いかも知れない。

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