プロメテウスの政治経済コラム

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トヨタQC手当拡大  あくまで「業務」ではなく「業務扱い」とするのはなぜか

2008-05-23 17:07:49 | 政治経済
トヨタ自動車が、「隠れたサービス残業」といわれるQC活動について、「業務扱い」とする部分を拡大することになった。残業代の代わりに支給している手当について、月2時間の上限を6月から拡大するとしているが、詳細はこれからである(「しんぶん赤旗」5月23日)。「朝日」(2008年05月22日03時00分)が<トヨタ、「カイゼン」に残業代  業務と認定>と報じたのは完全な誤報である。トヨタの労務管理の真髄をまったく理解していない。トヨタにおいて、「カイゼン」に費やす労働時間は、労使による「相互信頼・共同責任」に基づく活動であって、経営側から、一方的に与えられる「業務」ではないからである。

「しんぶん赤旗」の取材にトヨタ広報部は、QC活動は残業代の対象となる業務ではないものの、その代わりに支払う手当の対象となる「“業務扱い”の時間を拡大する」と説明。詳細は実施時に明らかにするとし、QC活動以外の「創意くふう」「ヒヤリ提案」などの自主活動については、「全部について手当を払うわけではない」としている(「しんぶん赤旗」同上)。これが、正確な情報である。
トヨタの労使関係管理の特質を考えたら、「トヨタ自動車は21日、生産現場の従業員が勤務時間外にグループで取り組む『カイゼン』活動について、残業代を全額支払うことを決めた。月2時間までとする残業代の上限を撤廃する。『自主的な活動』としてきたカイゼン活動を『業務』と認定する。労働組合も了承しており、6月1日から実施する」(「朝日」同上)と「朝日」がいうほどことは簡単ではないのだ。

今度のトヨタの対応は、QCサークルをめぐるトヨタ労働者の内野健一さん=当時(30)=の過労死事件で、QCサークル等は労働時間だとした名古屋地裁判決を政府が控訴を断念して昨年12月、確定。日本共産党の小池晃参院議員の質問に舛添要一厚労相が、判決に従い労働行政を進めると答えたことを意識したものであることは間違いない。
“世界のトヨタ”を追いつめたのは、6年半にわたる妻の内野博子さん、亜美ちゃん、雄貴君家族の訴えと頑張りであった。名古屋地裁の多見谷寿郎裁判長は、判決をのべた後、博子さんに異例のねぎらいの言葉をかけた。厚生労働相が過労死した家族の人に会うのも異例のことであった(岡清彦「“世界のトヨタ”を追いつめた家族の訴え」『前衛』2008・4/No.829)。

トヨタの生産様式は、“かんばん”(リーン)方式とよばれ、世界的に有名である。「必要なときに、必要な物を、必要なだけつくる」― いっさいのムダをはぶく贅肉のない所謂リーン生産方式である。そして、そのリーン生産方式をささえるのが、トヨタの“カイゼン”活動なのだ。当然に、高密度・長時間労働の持続を要求される。単に外的な強制力だけでは、安定した労働現場を維持できない。長時間・過密労働を受容せざるをえない内的「動機づけ」こそ、たんなる「トヨタ生産方式」ではない「トヨタウェイ」の真髄である(猿田正機「トヨタ生産方式・トヨタウェイと『働かせ方』」『前衛』同上)。

トヨタの「新労使宣言」(1996年)は次のように述べている。「『相互信頼』といえば相手がなにかしてくれるというような単なる相互依存の関係になってはいけない。そのためにも『相互信頼』に加えて、労使ともに相手になにかを要求する前にやるべきことがあるといった『相互責任』のような概念をあらためてうちたてる必要がある」。つまり、企業の発展のために労働者は企業に「協力」するのではなく、「責任」をもつというわけだ(切山昇「『労使一体化』路線の弱点はどこにあるか」『前衛』同上)。
企業の発展を労働組合の中心任務に位置づけたトヨタ労組は、これからの組合活動を「賃金、労働条件などの『量』の拡大を求める方針を改め、働き方の『質』の課題に対応する」と主張する。働き方の質とは生産活動にたいする組合員の主体的な“カイゼン”への取り組みである。
トヨタ労使にとって、QC活動はあくまで、残業代の対象となる業務ではない。なぜなら、これが、トヨタ労働者の労働意欲なり、「自主性・自発性」の源泉でなければならないからだ(切山昇 同上)。


内野さん家族の訴えは、“世界のトヨタ”を追いつめた。しかし、トヨタを「社員を大切にする会社」(博子さんのことば)に変える確かな道は、マルクスが教えるように、資本の絶対的剰余価値(労働時間)、相対的剰余価値(労働の密度)のあくなき搾取に対抗し、人間らしい働き方のルールを求める労働者階級のたたかいをおいてないのだ。

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1 コメント

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Unknown (西川均)
2008-05-24 21:45:59
「自主性・自発性」を装う強制。これの源泉は旧日本軍にあるではないかと思います。
「自ら特攻隊に志願した」のであるから、上官は陛下の赤子を徒死させた責任を負う必要はない。
「自ら活動に参加した」のだから、残業代を支払う必要はないし、過労死しても会社は責任を負う必要もない。

私も零細企業の経営者ですが、常にトヨタ方式は経営の模範として学習すべきものとされています。
しかしその裏には、特攻隊にも通じる強迫の構造があることが分かります。
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