プロメテウスの政治経済コラム

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米失業率9.5%に悪化 雇用減は戦後最長に 「金融危機と過剰生産恐慌との結合」

2009-07-03 21:01:55 | 政治経済
米労働省が2日発表した6月の雇用統計によると、失業率は9.5%と小幅ながら前月から0.1ポイント悪化し、1983年8月以来、25年10カ月ぶりの高水準となった。また、非農業部門就業者数は季節調整済みで前月比46万7000人減少した。就業者数が前月を下回るのは18カ月連続で、第2次世界大戦後の最長を更新した(「時事通信」7月3日0時20分配信)。
世界経済危機は最悪期を脱出したとも言われているが、まだ回復や安定にはほど遠い。さらに景気回復の足を引っ張る問題も浮上してきた。先進資本主義国の過剰生産恐慌からの回復は容易でない

予想を下回る雇用統計を嫌気して2日、米国株式相場は下落。ダウ平均は223.32ドル安の8280.74、ナスダックは49.2ポイント安の1796.52で取引を終了した。最近の株価の回復は、多分に投機マネーの動きに左右されており、経済実態を反映しているとは言い難いアメリカ大手金融機関の業績回復も、会計基準の変更によって回復したように見せかけた面があり、本当に業績がよくなったかどうかはまだ多くの疑問点が残っている

19世紀後半に鉄道の建設に始まる産業構造の重化学工業化が進み、鉄鋼、化学、鉱業等の巨大な設備で大量生産を行う再生産構造がひとまず完成した先進資本主義国(日本では戦後60年代)では、それ以降、ほとんど慢性的な過剰生産に陥る。それは資本主義システムが持つ矛盾からの当然の帰結である。
技術が進歩し、生産力が発達すれば、一定量の生産物を生産するのに必要な労働力は少なくてすむのであるから、本来そこで人類には余暇が発生するのであるが、剰余価値(時間)の搾取を推進動機とする資本主義においてはそうはならない。相対的過剰人口のもとで、半失業の低賃金労働者が生産過程から排除される。こうして生産と消費の矛盾は激化する一方で、過剰生産が恒常的となる。

過剰生産を解決し、生産を維持・拡大して利潤を得るために先進国ではなにをやったか。その一つの手段は、何らかの経済主体が借金(債務)を負って消費すること(借金による政府需要や消費者ローン)であり、第二は、消費の過程を迂回させて雇用を創出し所得を生み出し、消費につなげることである(経済のサービス化)。
戦争は、国が債務を負って消費を拡大する最大の行為であるが、同時に生産力の拡張が伴うので、戦争終了とともに過剰生産はいっそう拡大されたものとしてあらわれる。第一次大戦後の戦間期は深刻な恐慌期であった(大槻久志「アメリカ金融恐慌によって露呈された資本主義経済の危機と転換」『前衛』2009/7月号)。

国が債務を負うことによる消費の拡大と並んで、第二次大戦後に先進資本主義国で大きく進んだのが、経済のサービス化である。サービス化とは飲食業、配送、観光、娯楽などを中心とする消費の末端の延長、迂回化であり、生産ではなく消費過程、つまり売ることが大きなウエイトを占めることである。
経済のサービス化の延長線にあるのが金融化である。産業資本の資金需要が頭打ちとなった先進資本主義国で消費者金融が発達する。この分野を開拓した先進国アメリカでは、社会のあらゆる層、経済主体が膨大な借金を背負うこととなった

今回の世界経済危機は、2007年のアメリカにおける住宅バブルの崩壊、08年の金融バブルの崩壊と世界同時恐慌への突入という順序で発生したが、それに先立つ経過は次のようなものであった。 ①根本にあったのは、最終的な消費力(現実の需要)をはるかに上回る住宅建設の熱狂(住宅バブル)であった。サブプライムローンと呼ばれる低所得者への悪質な高利での貸し付けは、この住宅建設の熱狂をあおり、架空の需要をどんどん拡大していく役割を果す。「借金してモノを買おう」、これがアメリカ社会の風潮となった。②そして、その上に危うい「カジノ経済」が拡大した。サブプライムローンの債券(融資の返済を求める証書)が金融工学でお化粧されて、これが世界各地で優良な資産として売買されていった
金融経済の世界的破綻で始まった世界経済危機であるが、その土台にあったのは、借金でふくれあがった消費バブルで、それが一挙に収縮して大変な過剰生産恐慌となり、失業者が大量発生するなど、いまもその過程が進んでいるのである。だから今回の危機は、「金融危機と過剰生産恐慌との結合」が特徴であり、先進資本主義国の行き詰まりの論理的帰結といえるのだ。

さらに、いま実体経済の回復に打撃を与えかねない問題が浮上している。一つは投機マネーが再び活動をはじめ、原油、穀物などが急騰していることである。二つは景気対策のために財政支出を増やしすぎ、赤字財政への対応が必要となっていること、三つはその結果として長期金利が上がり始め景気への悪影響が懸念されることである。先進資本主義国の過剰生産恐慌からの脱却の見通しはまだまだ暗い

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