プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

北朝鮮への制裁   制裁は、交渉のルートをもってこそ生きてくる

2009-07-02 20:31:03 | 政治経済
6月28日、韓国の李明博大統領が来日し、麻生太郎首相と会談した。ミサイル発射や再度の核実験を強行した北朝鮮の挑発行為に対し、日韓両国が米国とも連携して制裁を強化することで合意した。制裁は無駄だとは言わない。長期の経済制裁がボディーブローのようにきいて、リビアのように最終的に態度をかえた例もないことはない。しかし、この場合でも国連決議にもとづき、国際社会が一致して経済制裁に取り組むことによってリビアを孤立させたこと、リビアが要求に応じたらどんな見返りがあるのかを、水面下で交渉し続けたからこその結果である。そもそも、経済制裁の対象となるような行為をする政府は、それが批判されるとわかっていて、無法に及んでいる。だから、制裁されたからといって、そのことで方針を変えるような政府は存在しない。北朝鮮への制裁も、制裁が北朝鮮国内でどのように受け取られ、次の手をどう打つのが効果的か表、裏、さまざまなレベルでコミュニケーションを持たなければならない。「日米韓が軸となって圧力を強める時だ」(「日経」2009年6月29日)といきり立つだけでは、北朝鮮は反発するだけで、何の効果も生まない。

国連憲章は紛争が起きたとき、まず平和的な解決につとめるが、それでもダメな場合は41条の(経済)制裁をおこない、それでも不十分なときは、42条の軍事制裁に移行するという構造になっている。
第41条「安全保障理事会は、その決定を実施するために、兵力の使用を伴わないいかなる措置を使用すべきかを決定することができ、且つ、この措置を適用するように国際連合加盟国に要請することができる。この措置は、経済関係及び鉄道、航海、航空、郵便、電信、無線通信その他の運輸通信の手段の全部又は一部の中断並びに外交関係の断絶を含むことができる」
ここに共通するのは、「兵力の使用を伴わない措置」ということだ。その内容は、3つに分けられる。
一つは、「経済関係の中断(全部または一部)」、いわゆる経済制裁とよばれるもの。
二つは、「鉄道…その他の運輸通信の手段の中断(全部または一部)」
三つは、「外交関係の断絶」、である。
6月12日の国連安全保障理事会全会一致の決議(1874号)は、「国連憲章41条に基づく措置」ということを明記しているので、非軍事的・外交的措置という41条の枠内で対応するということだ

最近、北朝鮮では、国連安保理決議に反発して、ウラン濃縮活動の再開や中部・元山(ウォンサン)南東の旗対嶺(キテリョン)の基地で中・短距離弾道ミサイル、北西部の東倉里(トンチャンリ)の基地で大陸間弾道弾(ICBM)発射の動きが伝えられている。一方で、金正日総書記の健康状態が悪化しているという報道が、中国や韓国から出てきている。北朝鮮人民は今の事態をどのように受けとめているのだろうか
かつて、南アフリカのアパルトヘイトに対して国連の経済制裁決議が行われ、かなりの国が制裁に参加した。しかし、経済制裁そのものは、各国の一致した協力とはならず、成功とはいえなかった。だが、決議の究極の目的であった黒人差別は、90年代アパルトヘイト関連法が撤廃され、1994年4月、普通選挙が実施され、黒人指導者であるマンデラが大統領となり、時間はかかったが成功した。国連安保理で、アメリカやイギリスは、黒人の暮らしを脅かすことになるからと経済制裁の強制化にむしろ反対した。しかし、南アの黒人は、そういう弁解を拒否し、南アに対して経済制裁することを国際社会に求めた。経済制裁が有効なのは、その国の人々が、その経済制裁を支持し、勇気をもって政権打倒に立ち上がるような場合である。さまざまなレベルでのコミュニケーションがないと、北朝鮮国内のことがまったくわからない

北朝鮮を制裁で締め上げたら、態度が変わると思っているとすれば、それは大きな間違いだろう。金正日政権が倒れても、少なくとも日本や米国に頭を下げることはない。北朝鮮中枢や国民の間には、親中国派はいても、親米派(まして親日派)はいないから、不一致・対立が起こりようがない。ただ、北朝鮮指導部は、2002年日本人拉致を初めて国家犯罪として正式に認めたことがあった。後の対応はまずかったが、当時あそこまで進めた日本外務省のコミュニケーション能力はそれなりに大したものだと思う。リビアの事例のように、要求に応じたらどんな見返りがあるのかを、水面下で交渉したのだろう北朝鮮は何を欲しているのか、どうすれば核開発を放棄させられるのか、さまざまなルートのコミュニケーションが必要だ。締め上げるだけで、相手が変わったためしはない。「敵基地攻撃論」や「核武装論」で脅せば、軍事的な挑発や暴発を誘発するようなものだ。北朝鮮と同じ土俵で争うことほど愚かなことはない

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