プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

世界の水問題と日本   食料輸入大国は、水大量輸入国でもある

2008-05-06 20:40:10 | 政治経済
食料をめぐる国際情勢が激変している。工業製品を輸出した金があるから、食糧は輸入すればよいと簡単に言えなくなってきた。丸紅経済研究所所長・柴田明夫氏は、「高い値段を払えば食糧はいくらでも市場で手に入る」時代は終わったという(『論座』2008/5月号)。日本農業に努力だけでは埋めきれない価格競争力の差があることは確かだが、温帯モンスーン気候に恵まれ、その気になれば生産可能な耕地を放棄して食料自給率を下げることは、世界のためにも日本国民のためにもならない。さらに大量の食料輸入は、世界の水問題をいっそう深刻にしている。

多くの途上国で水不足が深刻化している。水の不足は、生活用水の不足だけではなく、深刻な食料生産不足や生態系への影響をもたらす。また、汚水・雨水処理施設の未整備による水の汚染、危険な氾濫地域への居住人口の増加による洪水被害の増大等、様々な問題が発生している。

私自身、食料の輸入は水の輸入でもあるということを5月3日の「しんぶん赤旗」記事をみるまで、ほとんど気付いていなかった。農産物も工業製品も生産のために、かなりの量の水を消費するということは、言われてみれば確かにそのとおりである。もし、輸入製品を自国で作ったらどのくらいの水が必要か―これを「バーチャルウオーター」というらしい。

食料自給率40%を切る日本は、当然、海外の食糧生産に大きく依存している。ということはその食料を作るための水資源もまた、海外に大きく依存しているということだ。
バーチャルウオーターの定量化を研究している東京大学生産技術研究所教授の沖大幹さんグループによれば、2005年の日本のバーチャルウオーターのトータルは、835・8億㎥であり、これは国内の農業用水使用量を大きく上回るという。
たとえば、年間輸入量540万㌧を超える小麦のバーチャルウオーターは約90億㎥。牛肉や豚肉などの畜産物では、家畜が飲んだ水の量以外に、それらの飼料の生産過程で消費された水の量も考慮しなければならない。畜産物輸入のバーチャルウオーターは170億㎥を超える。

いま温暖化問題が世界の課題となっているが、気候変動は水資源におおきな影響を与える。オーストラリアから小麦、牛肉などを輸入する日本は、オーストラリアの渇水に無関心ではいられない。牛丼一杯、ハンバーガー一個でも何トンもの水を消費するといわれると世界の水資源問題に関心を持たざるをえない。
同時にいまのような食料輸入大国でいいのかを考えざるをえない。

今年3月以来、多くの途上国で、「食料が足らない」「食べていけない」と、暴動が起こっている。エジプト、カメルーン、コートジボワール、セネガル、ブルキナファソ、エチオピア、マダガスカル、インドネシア、フィリピン、バングラデシュ、ハイチなどの国々で暴動や騒乱が起き、死者が出た国もあるという。
世界には、人口一億人をこえる国が11あるが、そのうち穀物自給率は、アメリカ、パキスタン、中国で100%をこえ、ロシア、インド、バングラデシュ、ブラジルで90%台、インドネシア、ナイジェリアで80%台、メキシコで60%台。一人日本だけが27%だ(「しんぶん赤旗」4月23日)。

食料安全保障のために、日本独自の自衛策=自給率向上策を考えることは、世界の食料危機や水資源危機に貢献する道でもあるのだ。



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■フードマイレージ、バーチャルウォーターだけが環境負荷指標か?-バーチャルCo2はどうなのか? (yutakarlson)
2008-05-13 12:06:38
■フードマイレージ、バーチャルウォーターだけが環境負荷指標か?-バーチャルCo2はどうなのか?
こんにちは。最近フードマイレージやバーチャルウォーターという環境負荷指数が、マスコミなどで取り上げられることが多くなりました。しかし、私は、この指標自体に問題はないと思いますが、これだけに着目した場合片手落ちになるような気がします。私は、環境負荷指標に関して、バーチャルCo2という概念を考えてみました。この考えは、たとえばある国がある製品を輸入した場合、輸出国でその製品を生産したco2を輸入国に上乗せするというものです。詳しくは私のブログをご覧になってください。ただし、これは私が初めて考え付いたものなのか、それとももうすでにそのような概念があるのかどうかは判りません。もしご存知でした教えていただきたいです。いずれにせよ環境問題は地球規模の問題ですから、あらゆる観点から見ていく必要があると思います。
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