プロメテウスの政治経済コラム

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フセイン元大統領に死刑執行―心晴れないイラク国民

2006-12-30 20:07:04 | 政治経済

サダム・フセインに罪がないとは、誰も考えないだろう。シーア派などへの弾圧、イラク国民を恐怖政治に陥れた人道に対する罪、クルド人やイランに対する化学兵器使用やクウェート侵攻、捕虜虐待などの罪は衆人の認めるところである。しかし、サダムらを裁くイラク特別法廷は米有志連合軍占領統治下の暫定統治機関、イラク統治評議会によって2003年12月、設置された。イラクへの主権移譲直後の04年7月、国内法に従って、司法手続きが開始されたが、誰も「フセイン裁判」が米国から独立して進められたとは思わないだろう。イラク高等法廷(旧特別法廷)は、国連と関係なく米占領軍の肝いりで設置され、米国は約七千五百万ドル(約八十九億円)の裁判関連費用を提供したと言われている。フセイン側のドゥレイミ弁護士は、判決を「百パーセント政治的動機に基づいたものだ」と批判している(「しんぶん赤旗2006年12月28日」)。

AFP通信によると、26日に死刑判決が確定したサダムは27日、獄中からイラク国民あてに、「神が望むなら、私は真の殉教者に列せられることになろう」との声明を発表した。フセインは声明で、激化する宗派抗争などに言及、「イラクの敵、侵略者、そしてペルシャ人が、あなたたちに憎悪のくさびを打ち込んだもの」と断じ、米国やイランを激しく非難。その上で、「信仰深き国民よ、私は別れを告げる。私の魂は神のもとへ向かう」と述べ、最後は「イラク万歳。イラク万歳。パレスチナ万歳。聖戦に万歳。神は偉大なり」と結んだ(「読売新聞」12月27日22時20分配信)。

サダムの死刑執行はイランを封じ込めるためサダムを育てた過去を一緒に葬りたい米国と死刑執行によってスンニ派への元大統領の影響力を排除、旧政権の過去を払拭したいマリキ現政権との思惑が一致した結果と思われる。しかし、これによってイラク国民の融和が進むとは思えない。元大統領支持のスンニ派武装勢力が、現政府の中枢を占めるシーア派やクルド人への攻撃を活発化させ各種の暴動・反撃など、いっそう混乱が広がる可能性が高い。
裁判の公正さを疑問視し、死刑に反対していた欧州諸国や国際人権団体などから批判がでることも当然である。

旧フセイン政権下で抑圧されたシーア派住民の間などで、死刑を歓迎する声があるかもしれないが、アメリカの侵略によって国内をズタズタにされた、イラク国民の心は晴れない。外国軍を追い出し、自らの手で国民融和を実現するまで、イラク国民の心が休まることはない。死刑執行は「イラク民主化に向けた重要な節目」などというブッシュ声明は自己の敗北を覆い隠す一方的プロパガンダに過ぎない。


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