プロメテウスの政治経済コラム

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米大統領イラク増派に固執 気になるイランへの戦争拡大

2006-12-29 18:59:55 | 政治経済
ブッシュ大統領は当初、クリスマス前のテレビ演説でイラク見直し政策を発表する予定であったが、発表を来年一月に先送りする一方、記者会見などでイラク増派案を示唆している。田中宇さんは「増派の目的は、建前はイラクの治安の安定化だが、実はこれから米軍がイランを攻撃する際に使える兵力を増やすのが隠された目的なのではないか、と勘ぐる分析者もいる」と先の記事で述べている。ブッシュ大統領は12月中旬、行き詰まるイラク政策の見直しのためと称してネオコンの拠点となっているシンクタンク、米エンタープライズ研究所(AEI)の研究者や軍事専門家と会合した。ここで示されたのが、「勝利の選択―イラクでの成功のための計画」と題された提言である。AEIのF・ケーガン研究員やJ・キーン元陸軍副参謀長らが作成した同提言は、イラク戦争・占領作戦での「失敗」は「米国の信頼性を全地球規模で損ね、米軍のモラルを傷つける」とし、現在14万人のイラク駐留米軍を最大で二年間にわたり5万人増員して、首都バグダッドや西部アンバル州などで「治安回復」作戦にあてるよう勧告している(「しんぶん赤旗」同上)。今のまま、撤収することなどとても許されないというわけだ。

11月の中間選挙で与党・共和党が大敗したように米国民は、イラク戦争の完全な破たんに直面してイラク政策の転換を求めている。これを受けるかたちで、12月初旬、ベーカー元国務長官らによる超党派委員会、イラク研究グループ(ISG)は、イラク政策見直しの提言を発表した。それは、これまでの軍事力一辺倒の政府の方針を改め、イランやシリアとの直接対話も含む政治解決に踏み出すことを提言している。ブッシュ政権にとって、ISGの提言を受け入れることは、これまでの軍事力一辺倒のイラク政策や、イランなども対象とした先制攻撃戦略の誤りを自から認めることになりかねない。窮地に立ったブッシュ大統領の前に提示されたネオコン派の「勝利の選択」は、イラクの120倍の経済力と140万人の軍隊をもつ米国がイラクで勝てないはずはないとして、イラク戦争の「勝利は可能だ」と強調。駐留軍増派で治安を安定させればイランなどの「敵対的政権との受け入れがたい交渉も不要だ」と従来からの軍事力一辺倒の立場に固執している(「しんぶん赤旗」同上)。

12月20日、米軍が核武装しつつあるイランを威嚇するため、ペルシャ湾に航空母艦を中心とする部隊(空母打撃群)を2組、派遣すると、アメリカのマスコミがいっせいに報じた。米軍が空母2隻を派遣してイランを威嚇する、という記事が出た3日後の12月23日には、国連安保理で、イランの核開発(ウラン濃縮)を規制する制裁決議案が採択された。イランは、国連決議を無視してウラン濃縮を続けると表明し、決議を嘲笑するかのように、濃縮に使う遠心分離器を従来の300基から、一気に3000基の増設を行うと発表した。イラン政府は「核開発は発電用途のみ。核兵器は作らない」と表明しているが、今後、技術的には従来よりはるかに短期間で核兵器を作ることが可能になり、戦争の可能性がその分高まる(田中宇 同上)。

ブッシュ大統領の増派論に対しては、軍関係者などから「情勢をいっそう悪化させるだけだ」との批判の声が出ている。それに対して「勝利の選択」は、増派して治安回復作戦をとれば、反対派も反撃して一時的に「犠牲は増える」と認めながら、「短期的な犠牲の増大は失敗の印ではない」と開き直っている(「しんぶん赤旗」同上)。
先日、日本を訪問したヨルダンのアブドラ国王は「来年前半のうちに中東和平を進展させないと、大戦争の惨事が起きる」「(中東にとって)07年は非常に重要な年である。今後6-7カ月の間に和平が実現しない場合、イスラエルを含む中東全域が、破滅的な結末を迎えることになる」と述べた(AFP Dec22)。来年早々からの中東情勢に目が離せない。

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