プロメテウスの政治経済コラム

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いつまで続けられるか 安倍首相のアジア外交あいまい戦略と中華思想の真実

2006-12-31 18:50:09 | 政治経済
安倍氏が、靖国神社に参拝するともしないとも明言しない形でこぎつけた日中首脳会談。安倍氏を支持してきた日本会議など右派保守層には不満がくすぶっている。安倍首相は、「対中国原理主義者」といわれるくらい首相就任前は対中強硬論者の中心にいた。9月の自民党総裁選で、1972年の日中国交正常化の際に「中国が軍国主義者と一般国民を分ける認識を示したことは事実だが、日本は合意していない」と発言、日中国交正常化の原点を否定してみせた。しかし日中国交正常化は、日本が侵略戦争の責任と反省を表明、中国が戦争責任は一部の戦争指導者にあり、一般の日本国民も被害者だったとして賠償請求を放棄して実現した(「しんぶん赤旗」同上)。

安倍氏については「発展する中国を認めたくなく、反発と警戒心が先に立つ。日本が一方的に譲歩を強いられているとの思いから中国への対抗心をかき立てる。歴史認識、アジア観の根底にそれがある」(ある国際政治学者)と指摘されている。安倍氏の発言がメディアを動かし、右派論客、右派保守層が呼応して排外的ナショナリズムを増幅してきたのがこれまでの経過である(「しんぶん赤旗」同上)。
日本人には中国は中華思想―中国は世界の中心であり、もっとも優越した国と自意識する覇権主義―の国だとする見方が根強くある。しかし、森嶋通夫・ロンドン大学名誉教授は、この見方は中国の歴史に照らしても誤っているという(森嶋通夫『日本にできることは何か』岩波書店2001)。
中国の王朝が北京(燕京)に都をおいた金(1153年頃)以降に限ってもその後の元、明、清が滅亡する1911年の758年のうち、漢民族は明の約300年で、金、元、清は漢民族ではない。残りの約450年は夷狄が北京を支配していたのである。これではいわゆる中華帝国思想は育ちようがない。蛮族から漢民族を防衛するために長城を建設したにもかかわらず、中国は長城の外の蛮族に繰り返しふみにじられた。夷狄にふみにじられた以上は、彼らを少なくとも表面上は尊敬し、適切に処置しなければならないという、現実に直面しなければならなかった。こうして中国の首都は西安の昔からコスモポリタンの町、外国文化が漢文化と両立して共に栄える町になった。開放的で決して排他的でないのが中国であり、そしてこれこそが中華思想の核心なのだ。世界を中国が牛耳るという意味の中華思想とまったく逆である。二千年以上にわたって繰り返し革命が行われ、王朝の興亡が激しかった国で生きてきた中国人は現実には楽天的でリアリストである。天に見捨てられた王朝は別の王朝にとって代わられるのが当然だと考える中国人にくらべ、革命を恐れ嫌い、万世一系の天皇家の天壌無窮を信じ込んできた日本人の方がはるかに警戒的、排他的で劣等感の裏返しとして、アロガント(矜大)である。

首相就任後、内外の状況に押されて、中国と戦略的互恵関係を打ち出した安倍首相は、靖国参拝をすれば自身の外交成果を台無しにしてしまうというジレンマを抱え込んでしまった。
「戦後体制からの脱却」を掲げて登場した安倍政権は、閣僚や自民党三役、そして首相官邸の要所に“改憲タカ派”を配置してスタートした。15日の参院本会議での改悪教育基本法と「防衛省」法の成立についてニューヨーク・タイムズは「戦後の平和主義から遠のく措置を講じる」と報じた。安倍氏は「支持者にとっては強力な指導者だが、批判者にとっては危険な国家主義者」と書いた米国『タイム』誌。閣僚経験の乏しい安倍氏の人気を高める点で北朝鮮への対決姿勢が大きな役割を果たしたとしたうえで「彼(安倍氏)はそこから間違った教訓を引き出し」「国内で人気を失えば、彼は本能的に、より耳障りな国家主義に立ち戻るかもしれない」スティーブン・ボーゲル米カリフォルニア大バークリー校准教授の分析)と述べている。
国内で人気を失いつつある安倍政権。アジア外交あいまい戦略をいつまで続けられるか。安倍首相の地金が見えてくるのは、そう遠い先ではないかもしれない。

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