プロメテウスの政治経済コラム

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製造業の国内回帰とオール与党が推進する企業誘致競争の悲しい現実

2007-03-30 17:45:34 | 政治経済
最近、国内工場を高付加価値製品の生産兼技術開発の基地にしようとする動きが活発化している。生産技術の革新・改良は製造現場を離れて研究所だけで進められるものではない。画期的な新技術は、研究所のひらめきから生まれるかもしれないが、製造技術の改良・革新は「現場で現物を見て現実を直視する」ということが原則である。また日本の労働者の質の高さを海外立地で短期間に得ようとしても不可能である。人件費の安い海外進出は重要だが、「日本に残すべきところは残す」といういまの日本の製造業の思いは、インセンティブの有無に直接関係ない。ところが、自民、公明、民主の各党などが進める「オール与党」の自治体は競い合うように大企業誘致のための巨額の補助金を出している。「雇用の創出」がうたい文句だが、増えたのは非正規雇用だけというのが悲しい現実である

民主党の衆院議員だった松沢成文氏が知事を務める神奈川県。同県では企業誘致のための「インベスト神奈川」という制度をつくった。この制度は、県内に大企業が本社、工場を建設した場合には50億円、研究所の建設には80億円の助成が受けられるというものである。日産自動車116億円、武田薬品工業80億円、富士フイルム93億円、富士ゼロックス60億円、リコー45億円、ソニー43億円…。補助金を受けた大企業は笑いが止まらない。リコーや富士フイルムの研究所では、新規の県内の新規雇用はゼロ。雇用の創出にはまったく結びついていない(「しんぶん赤旗」2007年3月28日)。

千葉県の茂原市にある日立系企業「IPSアルファテクノロジー」。テレビの液晶パネルを生産するこの企業の誘致のために、県、市とも条例をつくり、県が50億円、市が40億円出すことを決めた。しかし、「IPS」の新規の正規採用はゼロ。従業員数1520人のうち、正規職員は約660人。すべて隣接地にある親会社の「日立ディスプレイズ」からの移転。投入した90億円の税金は地元の雇用増には役立たず、日立のリストラに役立っただけである(「しんぶん赤旗」同上)。

三重県が知事の「トップセールス」で90億円の税金を投入して誘致したのが亀山市のシャープ工場。県は「1万2000人の雇用創出効果がある」「地域振興になる」と宣伝してきた。しかし、地元雇用や新規雇用で増えたのは四年間でわずか225人。地元の亀山での採用はその4分の1だけだった(「しんぶん赤旗」同上)。

兵庫県は松下電器のプラズマテレビの尼崎三工場に175億円を支出する。県の補助金は全国でも例のない「上限なし」の青天井。175億円には雇用の補助金(8億5千万円)も含まれる。しかし、松下尼崎第一工場の新規地元雇用は正社員は6人のみ、236人はすべて派遣労働者である(「しんぶん赤旗」同上)。
国内回帰する企業は、質の高い労働者をアジア並みとまではいかなくてもギリギリに引き下げた低賃金で確保することを当然の前提としているのだ。

大阪府が10億円を出して誘致した三洋電機の太陽電池工場(貝塚市)。従業員360人のうち、210人は請負労働者。150人の正社員のなかで新規採用はわずかに11人。139人はほかの工場からの転勤であった(「しんぶん赤旗」同上)。
名古屋駅前の高層ビル「ミッドランドスクエア」。トヨタ自動車の海外営業部門などが入るこのビルに、国、県、名古屋市は合わせて18億円余りの補助金を注ぎ込んだ(「しんぶん赤旗」同上)。

製造業の日本回帰それ自体は、国民経済にとって歓迎すべきことである。問題は企業誘致競争の中身である。多くの場合は、莫大な利益をあげ、負担能力を持つ大企業へただ補助金をばらまいているだけである。「空前のもうけをあげている大企業にばらまく札束があるなら、福祉に使え、くらしに使え、中小企業に使え」という日本共産党の志位和夫委員長の訴えこそ正論だろう。

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