プロメテウスの政治経済コラム

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原油価格100ドル肉薄  産業にも国民生活にも悪影響  原油価格変動の要因は?

2007-11-23 18:55:20 | 政治経済
原油の国際指標価格となっている、ニューヨーク・マーカンタイル取引所の米国産標準油種(WTI)が1バレル=100ドルに肉薄する「異常な高値」(経済産業省・北畑隆生事務次官)となり、産業や国民生活への悪影響が懸念されている。北畑次官は、「投機による値上がりは付加価値を生んでおらず、いずれ崩壊する」と、“原油バブル”を批判するが、第2次オイルショック時の高騰が世界的な不況につながったように、今後、原油価格の高騰が続けば世界的な景気減速にもつながりかねない(FujiSankei Business i. 2007/11/22)。燃料の値上がりは、輸送コストや食料品にも及んできており、格差と貧困に苦しむ庶民にとって厳しい冬となりそうだ

原油価格の高騰というと、思い浮かぶのは1974年の第一次、79年の第二次の2回にわたる石油危機だろう。ただ、当時と現在では、物価水準も為替レートも大きく異なっている。過去の原油価格を現在の物価水準と為替レートに置きなおした実質価格でみると、第一次石油危機の際には20ドルから50ドルへの上昇、第二次では30ドルから100ドルへの上昇に相当していた計算になる。第一次石油危機の際には、成長率がマイナスに転じると同時に、物価は1年で20パーセント以上も上昇した。多くの消費者がトイレットペーパーなどの消耗品の買い占めに走るなど、日本の経済、社会は大混乱に陥った。それに対して、第二次の際には、省エネ対策が進んだこと、前回の経験を踏まえて企業や消費者が比較的冷静に対処できたことで、景気の落ち込みはあったものの、第一次ほどの混乱はなかった(読売ADレポート2005年12月号)。今回の原油価格の高騰は、このまま続けば、第二次石油危機に相当する価格上昇である。サブプライムローン問題とからんで、今後、景気の減速は避けられないだろう。

今回の原油価格急騰をどう見るか。原油価格の変動は、(1)需給バランス(2)地政学リスク(3)投機資金流入など多くの要因が絡み合っている。直近の急騰は、(3)の投機的要因が最も大きいと考えられる。世界の原油需要は日量約8千5百万バレルといわれる。しかし、毎日、その何倍もが取引されている。そのことでも、実際の需要のない投機目的の取引が大きい比重を占めていることが分かる。石油業界の関係者は、現在の需給関係では一バレル=50―60ドルが妥当な水準で、それ以上は投機による押し上げ分だとみている(「しんぶん赤旗」11月22日)
経産省・北畑次官は21日の記者会見で、「石油の実力は(1バレル)60ドルよりは下だ。いずれ40―60ドルあたりに収束すると思う」と述べた。そのうえで「12月の国際エネルギー機関(IEA)理事会、石油輸出国機構(OPEC)総会で投機による高騰について何らかのメッセージが出ることを期待したい」と強調した(Nikkei.net 11月22日07:02)。
世界的低金利と過剰ドルにる「金余り」は投機資金を生み出し、もうけ先をさがして世界を駆け巡っている。高止まりする原油の市場にも、以前から投機資金が流入していた。それに加え、8月以降は、米国の低信用層向け高金利型(サブプライム)住宅融資の焦げ付きが発端で、住宅ローン担保証券やその他の証券の価格や格付けが急落したことで、投機資金が証券市場から逃避し、原油などの商品市場に向かった。そのため、原油だけでなく、金属や穀物なども高騰している(「しんぶん赤旗」同上)。 

(1)の需給バランスについては、中国など新興経済諸国を中心に、石油需要が急速に伸びていることも原油価格の高止まりの要因となっている。世界の原油埋蔵量は、現在の消費水準で50年ほど賄えるとされている。それ以上という試算もある。世界の総量でみると、供給が需要をやや上回っており、差し当たっては、石油は足りているはずである。しかし、ガソリンなど白油が多く採れる軽・中質油に需要が集中し、需要と供給の不適合が起きていて、そのために逼迫感が増幅されている(「しんぶん赤旗」同上)。
(2)の地政学リスクについても、イラク、イランなどの供給不安は、依然大きな重しとなっている。世界最大の石油消費国の米国の精製設備能力不足や設備の老朽化も地政学リスクといってもよいかも知れない。

原油価格は70年代までは、石油輸出国機構(OPEC)が決め、価格は固定していた。しかし、70年代の二次のオイルショックを経て、OPEC諸国以外での原油生産が増え、OPECの比重が低下。その結果、原油の価格は、決定の主導権がOPECから市場に移り、市場の思惑で変動するようになった。世界の原油価格の指標も中東産原油から、WTIに代わった。市場が価格を決め、その指標がWTIになったことで、原油価格がかつてより激しく変動するようになった。過剰ドルによるドル不安、投機的取引など当面、需給関係からかけ離れた、ドル建て原油価格の変動は避けられそうもない。

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