プロメテウスの政治経済コラム

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不平等条約で日韓を蹂躙する米国  ―東アジアの2つの対米従属国への「ショック・ドクトリン」―

2011-11-12 20:44:03 | 政治経済

野田首相が国民生活に重大な影響を与える環太平洋連携協定(TPP)交渉への参加を決めた。首相が発表を1日遅らせたのは、国民の反対に押された民主党内の抵抗が予想を超えていたからである。しかし参加反対の広範な世論にも、情報が不足だとの国民の強い懸念にも耳をふさぎ、与党内の論議さえ押し切ったことに変わりはない。ハワイでのオバマ米大統領との首脳会談で米国追随の姿勢をアピールすることを最優先にしたものだった。それは、19世紀帝国主義時代以来の植民地官僚のとる態度そのものだ。TPPは、「平成の開国」どころか、新たな段階での「平成の属国」化とでも言うべきものだ

韓国の国会は10日、米韓自由貿易協定(FTA)の批准案処理を予定していたが、与野党の折り合いがつかず、中止した。最大野党の民主党は、投資家が投資国の裁判所ではなく、第3の仲裁機関で紛争を解決できる国家訴訟制度(ISD)を問題にしている。1992年に米国、カナダ、メキシコが調印した北米3カ国のFTAであるNAFTAにも、ISD条項があり、この条項を使って、米国企業がカナダやメキシコの政府を訴えて勝訴し、カナダやメキシコの政府が政策の変更を余儀なくされた「実績」があるからである。

 

米韓FTAの交渉が始まったのはブッシュ時代の2006年である。オバマ政権は、ブッシュ政権時代に米韓で締結されたFTAをいったん破棄し、米韓は再交渉に入った。この再交渉の途中だった昨年春、米韓が北朝鮮海域のすぐ南で軍事演習中に、韓国軍の哨戒艦「天安」が沈没する事件が起こった。真相が闇のなかで、今度は昨年秋、南北が対立する延坪島周辺の海域での砲撃戦が起こり、米韓が北朝鮮と激しく対立し、一触即発の事態が続く流れとなった。天安艦事件後、米国からはしごをはずされたくない韓国にとって、在韓米軍の駐留継続の重要性が強まり、米国から足元を見られることになった。そんな中で昨年末、米国産の自動車や牛肉などを韓国に輸出する分野で、韓国が米国側の要求をいれるかたちで交渉が妥結し、米韓政府がFTAに調印した。オバマは10月中旬、訪米した李明博を個人的に親密に接待し、翌日は一緒にデトロイトの自動車工場を見学した。オバマは、大統領が使う国防総省の特別会議室に李明博を招待し、パネッタ国防長官や米陸海空軍の高官がずらりとならび、李明博に米軍の戦略を説明した。外国要人が国防総省の特別会議室に招待されたのは初めてだった。デトロイトの自動車産業を訪問したのは、韓国に米国製の自動車を買わせる意思表示であり、国防総省の特別会議室は、来年、史上最高額の14・5兆ウォン分の兵器を買わせるためだった。韓国版「ショック・ドクトリン」である。

 

韓国の李明博政権は、対米従属をやめられないため、米国に足元を見られ、自国に不利なFTAの締結を余儀なくされている。似たような状況に日本も陥っている。日本政府は米国から「沖縄の普天間基地の辺野古移転を早くやれ」と脅されている。「辺野古移転をやれないなら(事実上の日米FTAである)TPPぐらいは加盟しろ」と言われていることは間違いない。米韓FTAでは、主食のコメを例外品目にすることができたが、例外なき関税ゼロが原則のTPPではそうはいかない。鹿野道彦農水相も11日の参院予算委員会で、TPPに参加した場合、コメを関税撤廃から除外することは「大変困難」だと認めている。一般に貿易自由化に関しては、TPPをとるかFTA ・EPAをとるか、ポジティブ・リスト方式かネガティブ・リスト方式かで大きな違いがある。なぜ、急いでTPPか、野田政権もメディアもなんら説明していない。TPP参加は、日本側にとっては、(1)被災地の復興の最大の妨げになり、(2)食料の安定供給を土台から壊し、(3)「食の安全」や「医療」など米国の対日要求が押し付けられ、(4)雇用と内需・日本経済全体への深刻な打撃となることが明らかだ

 

野田首相の意思表明を受けて、早速、米国側の圧力が始まった。「野田首相の重要な意思表明を歓迎する」―。カーク米通商代表部(USTR)代表は11日、声明を発表し、日本の交渉参加方針を歓迎した。一方で、参加承認をめぐる日本との交渉では、米国の議会や産業界、農業団体など利害関係者と「緊密に協議する」と強調。日本は参加に当たり、「米国が懸念を示してきた農業、サービス、製造業での貿易障壁をめぐる問題に対処する必要がある」、「牛肉輸入制限と郵政改革、自動車市場への参入障壁を2国間協議の対象に取り上げる」、と早くも手ぐすねをひいて圧力をかけ始めた。
まさにTPPとは、東日本大震災と福島原発事故で、日本に住む人びとが「まだそのショックにたじろいでいる間」に、小泉=竹中路線で実現できなかった「『改革』を一気に定着させてしまおうという戦略」なのだ。TPPこそは、日本版「ショック・ドクトリン」に他ならない(金子勝「平成の『属国』化 TPPの嘘」『世界』2011.12/No.824)。

 

 


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