プロメテウスの政治経済コラム

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財界の「ワークシェアリング」論をどう考えるか  自由な生活時間確保の前提条件

2009-01-25 18:58:18 | 政治経済

一人当たりの労働時間を減らして仕事を分かち合うことで失業をくいとめるというのが「ワークシェアリング」のもともとの考え方である。日本の労働者の超過密・長時間労働は世界でも、つとに有名である。一人当たりの労働時間を減らし、自由な生活時間を確保すること自体は、結構なことである。しかし、財界は一度覚えた搾取度を緩めることにそう簡単に同意するはずがない。自由な生活時間を確保するには、必要不可欠な前提条件があり、それは労働者が運動によって闘いとるほかないのである

雇用対策の一つとして財界が「ワークシェアリング」をとなえ、一部企業に実施の動きがみられる。「ワークシェアリング」は、経団連の御手洗冨士夫会長が今年になって、「一つの選択肢」と言い出したのが議論の発端である。ところが「仕事の分かち合い」で雇用を守るといいながら、もっとも緊急の対策が求められている派遣など非正規雇用労働者は、はじめから対象外である。御手洗氏が会長をつとめるキヤノンなど大企業各社がいっせいに「非正規切り」に走り、3月末にかけてさらに深刻化すると予測されているとき、非正規労働者の雇用確保を問題にしない「ワークシェアリング」など欺瞞そのものではないか

財界の念頭にあるのは、結局、労働時間短縮を口実に正社員の賃金を引き下げることなのだ。

富士通マイクロエレクトロニクス(東京)では、1月から3月までの間、交代勤務を一人当たり労働時間12時間から8時間に短縮し、賃金をカットする方針を打ち出している。同社グループで派遣社員約400人を削減する計画に変更はないという。マツダは、広島県の本社工場と山口県の防府工場で昼夜二交代制の夜間操業を中止して一人当たりの労働時間を半減し、賃金をカットする方針。派遣社員を今月末までに1500人削減する方針は変えないという(「しんぶん赤旗」2009120日)。

いずれも非正規の労働者の大量解雇は予定通りすすめ、新たに正規雇用の労働者の賃下げを画策するものだ。これが財界の「ワークシェアリング」論の本質である。

労働者にとって一日24時間は、おおまかにいって、労働時間、生活時間、休息時間の3つに分かれる。
その大前提は、労働=雇用が保障されていることである。労働=雇用が保障されているうえで、仕事と生活に割り振る時間が問題になる。非正規の労働者を、労働=雇用を保障する対象外と考えること自体、彼らを人間扱いしない資本の恐るべき退廃である

自由な生活時間の確保には、労働=雇用の保障以外にいくつかの必要不可欠な前提条件がある。
たとえば、労働基準法の週40時間の労働で「健康で文化的な最低限度の生活」を充足する以上の賃金・報酬が保障されていなければならない。週40時間労働によるだけでは、生活保護制度以下の生活水準を余儀なくされる(ワーキングプア必至の)賃金・報酬水準では、いくら労働時間が短縮されても自由な生活時間の確保にはならない。正社員の雇用を脅しに使った賃下げ攻撃は、「健康で文化的な最低限度の生活」を危うくするものだ。
自由な生活時間の確保には、直接賃金のほかに、間接賃金(社会保障)、保育・介護などの公的サービスの保障も前提条件となるが、本日の主題と外れるので別の機会としたい。

労働時間の短縮で雇用を拡大するという本来の「ワークシェアリング」で成果をあげた事例として、フランスの「週35時間労働法」(2000年6月施行)が知られている。法制定にともない、500人以上を雇用している大企業(トヨタなど日系企業を含む)のほとんどが35時間労働に移行し、これで失業者を百万人以上減らしたといわれている(「しんぶん赤旗」同上)。
日本で、雇用を拡大するために、まずとるべき方策は、サービス残業の根絶など長時間残業の是正である。サービス残業はもともとあってはならない違法行為であり、本来「ワークシェアリング」の前提として、まず解決しなければならない課題である。操業短縮で労働時間を減らすのはいいが、賃金カットの口実とされたうえに、サービス残業をしていたのでは、労働者は踏んだり蹴ったりである

日本で大企業がいま「ワークシェアリング」と称して実施しているのは、労働者に一方的に犠牲を押し付けるだけの欺瞞そのものだ。現在、韓国でも財界主導の「ワークシェアリング」が問題となっており、「危機の克服には、痛みの分かち合いが必要」とする李明博(イ・ミョンバク)政権に対し、労働界は、低賃金労働者を増大させ、不況を深刻化させると反発している。「労働者を生贄にして、危機を回避するのが本音だ」(韓国・全国民主労働組合総連盟)。この批判は、そっくり日本の場合にも当てはまる。


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