プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

教科書検定  「ジェンダー・フリー」削除の真の狙い

2006-03-30 19:19:23 | 政治経済
ジェンダーフリー・バッシングは、ついに文部科学省の教科書検定によるこの言葉の削除にまで行き着きました。これは単に底の浅い思いつきでも頑迷な時代遅れのオヤジの女性蔑視の現われでもありません。深刻なかつ巨大な国家改造計画の一環としての動きなのです。

文部科学省は29日、来春から主に高校一年生で使われる教科書の検定を公表しました。例のとおり、「従軍慰安婦」や「南京大虐殺」で書き直しを要求したほか現代社会の申請本にあった「ジェンダー・フリー」という言葉が削除されるなど、女性の権利にかんする記述を書き直させる傾向も目立ちました。
すでに東京都教育委員会は2004年8月「ジェンダーフリー」という用語を教育現場から排除することを決めました。「意味や内容が使用する人によってさまざまで、誤解や混乱が生じている」というのが表向きの理由です。

「ジェンダー・フリー」とは、「男らしさ」や「女らしさ」を生物学的な性差としてではなく「女(男)はこうあるべきだ」などと役割を固定化する社会的文化的につくられた性差(ジェンダー)にしばられないという意味です。憲法24条の「個人の尊厳」「両性の本質的平等」「男性の支配ではない」「両性の協力」(現憲法はベアテ・シロタ・ゴードンさんの草案を少し書き直しています)そのものです。誤解を生じる余地はありません。

男女共同参画社会基本法が制定されたのは、1999年5月です。自治体でも男女平等をめざす条例づくりがすすみ、「男は仕事、女は家庭」「男らしく、女らしく」といった固定的な性別役割分業や偏見を見直していこう、という努力がNGOや運動団体を中心に始まりました。一方で、これに焦った勢力からこうした努力を敵視・妨害する発言や動きが活発化します。

国会では、自民党や民主党議員が、厚生労働省所管団体の発行した性教育冊子などをとりあげ、政府の男女共同参画施策には「ジェンダー・フリー」の考え方が影響して「行き過ぎがあるのではないか」と非難。「男には男、女には女の役割分担がちゃんとある」(河村建夫文部科学相-当時)、「日本人が男らしくなくて、へなへなしていたら、この国は守れない」(民主党議員)、「(ジェンダーフリー思想は)この国の秩序、家族社会を崩壊にもっていく」(自民党議員)と「ジェンダー・フリー」攻撃の真の狙いをあけすけに語っています。『正論』や「産経」など一部マスメディアや「新しい歴史教科書をつくる会」、右派改憲団体「日本会議」などが憲法・教育基本法改悪をねらう動きと一体となり、「ジェンダー・フリー」攻撃をキャンペーンしてきました。

昨年11月の自民党新憲法草案は9条改憲のみを優先し、24条には手をつけませんでした。しかし、2004年6月の自民党憲法調査会の憲法改正プロジェクトチームが発表した「論点整理」は、なぜ「ジェンダー・フリー」攻撃にこだわるかを赤裸々に明らかにしています。それは、男女不平等な性別分業型家族に基礎をおいた「戦争ができる国家」へ現在の日本を造りかえるという国家改造計画の一環として出されています。

現代の若者にストレートに「国のために命を投げ出せ」といっても難しいでしょう。そこで「国を守るということは、自分の家族を守ることである」という男性の「家長」意識に訴えることになります。現代における「新たな家長」を育てるためには、男女平等は邪魔になります。

近代国家は、国家を構成する市民権と国家の独占した公的暴力(軍隊)を行使する義務とを男性に付与し、兵役の義務のない女性には一人前の市民権を与えず「銃後を守る」役割を負わせました。この秩序のもとで、家族内における家長男性の暴力(私的暴力)は犯罪化されませんでした。家族内における男性支配を否定しDV(ドメスティック・バイオレンス)を問い糺す男女平等社会は「男性の暴力機構」=軍隊にも影響を及ぼします。

家族内での男女平等はDV(身体的暴力)からの解放とともに「経済的な暴力」(食わしてやっている)からの解放をも要求します。これは、憲法14条の「政治的、経済的、社会的関係」すなわち公的領域における性差別の禁止にかかわります。公的領域及び私的領域での「個人の尊厳」「両性の本質的平等」の実現を求める「ジェンダー・フリー」の運動は私的暴力、公的暴力を否定する平和・福祉国家の建設につながるものです。



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