普天間爆音訴訟の控訴審判決が29日、福岡高裁那覇支部で言い渡された。早朝、夜間の飛行差し止め請求はまたしても退けられた。ふらちな使用で周辺住民に被害をもたらす店子=米軍機の騒音の違法性を認定しながら、家主(=日本政府)はモノ言えないので、飛行の差し止めは諦めてくれというのだ。これを司法の世界では、「被告(国)は、条約ないし国内法令に特段の定めがない限り、米軍の本件飛行場の管理運営の権限を制約し、その活動を制限することはできない」[つまり、権限のない被告(国)に、原告らが米軍機の差し止めを請求するのは、「被告に対し、その支配の及ばない第三者の行為の差し止めを請求するもの」として「主張自体失当」=“第三者行為論”]という。簡単に言えば、「治外法権」なのだ。
日米間には一応、騒音防止協定があるが、日本を植民地だと思っている米軍に協定を守る意思は毛頭ない。そして、協定違反がいくらあっても、基地の「提供者」=日本政府は、使用制限や退去を求めることはない。主権国家として、米国にモノを言う政府を国民の力で樹立しない限り、損害賠償でカネをもらっても、住民の苦痛、健康被害はなくならない。
最高裁が、伊達判決を米国の圧力で逆転させて以来、日本の司法は憲法法体系を超越する安保法体系に屈服した。
今回の高裁判決に対して、琉球新報は、「政府に差し止めの意思がまるでなく、交渉もしない中で、司法が救済しなければこの狭い島の中、住民はどこに住めばいいのか。最後の砦(とりで)としての司法の役割を放棄した判決と言うほかない」とやり場のない怒りをぶつけている(「琉球新報」2010年7月30日 )。
しかし、同じ記事で、「イタリアの米軍基地では、地元政府が注文を付け、昼寝(シエスタ)の習慣のために昼間でさえ飛行停止させている。対等な関係なら、基地の使い方に提供者側が注文を付けるのは当然」だと指摘するように、差し止めの意思がまるでなく、交渉もしない日本政府こそが諸悪の根源なのだ。
琉球新報は同じく「判決は『条約や国内法令に特別の定めがない限り、米軍の活動を制限することはできない』と述べる。この判断自体、疑問だが、百歩譲ってこの理屈を認めるとしても、それなら『特別の定め』をつくるよう行政府に促すのが筋だろう。しかし、そのような文言は見当たらない」と司法を叱咤している。
気持ちは良く分かるが、司法を叱咤する前に、普天間の住民の皆さんの苦痛に思いを馳せ、米軍の無法に注文をつけるよう日本政府を叱咤する多数の世論を結集すことが肝要だ。
08年6月26日の一審判決は、普天間基地の爆音が受忍限度を超え、生活・睡眠妨害を生じさせ、米軍機墜落の不安感や恐怖感など精神的被害を増大させることを司法として初めて認定。他方、夜間・早朝の飛行差し止めは棄却し、ヘリ特有の低周波被害も認めなかった。
今回の判決について、原告弁護団の新垣勉団長は、積極面として(1)米軍機の発する騒音が違法であることを再度断罪(2)普天間基地特有の低周波騒音を司法として初めて認定(3)損害賠償額水準の引き上げ(4)普天間基地が「世界一危険な飛行場」という評価を初めて判決で指摘した点、などをあげた(「しんぶん赤旗」2010年7月30日)。
しかし、住民らが願う飛行差し止め請求に対しては、最高裁判例を踏襲し、米軍の活動に国の権力が及ばないとする「第三者行為論」を理由に門前払いとした判断は、問題の本質から明らかに目を背けたものだった。
最高裁判決を覆すには相当な勇気がいる。
政治のゆがみや誤りを憲法に照らして是正するのが司法の本来の役割だが、安保法体系にモノ申すことに司法は今なお遠慮し、消極的である。
「抑止力」という言葉はきわめてアイマイだ。米軍が駐留しているから、日本は外国から侵略されなかった、といわれれば、そうであるような気になる。しかし、日米同盟の実態をその歴史に即して具体的にみるならば、そしてアジア、世界の構造変化を虚心坦懐にみるならば、本当にそうだろうか。
自分自身で調べ、自分の頭で考えることである。米国と軍事同盟を続ける限り、日米関係が対等になることはないし、自主的な外交もない。
普天間問題は戦後65年間、米軍に占領され続けてきた沖縄の縮図である。私は、日本国民が賢くなる絶好のチャンスだと思う。だって、「その国の政治がアホなのは国民がアホだから」である。
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