プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

米議会「慰安婦」決議の行方―安倍首相の政権運営の思惑と「慰安婦」問題の国際的到達点

2006-12-10 20:30:52 | 政治経済

下院外交委員会(ハイド委員長=共和党)が、日本政府に責任を認めるよう求める「慰安婦」決議を全会一致で通過させたのは9月13日。民主党のエバンス下院議員は2001、03、05年に同様の決議案を提出しているが、委員会を通過したのは今回が初めてであった。議会院内紙ヒル(9月27日付)によると、委員会通過後、ハイド委員長や他の議員が本会議での速やかな採択を求める書簡を送付したが、「対日関係を考え、決議案にいい顔をしない」下院議長のハスタート議員や院内総務のベイナー議員(いずれも共和党)は、採決日程を決めることを渋ったとのことである。日本政府は大物ロビイスト(元下院院内総務のロバート・マイケル氏)に「月6万ドル(約690万円)」もの大金を支払い、ハスタート議員やベイナー議員への働きかけを依頼、ホワイトハウスも「ひそかに慰安婦決議を妨害していた」と指摘されている(「しんぶん赤旗」同上)。

安倍首相は、首相就任後、彼を首相に押し上げた「日本会議国会議員懇談会」や「日本の前途と歴史教育を考える国会議員の会」(歴史教育議連)、「みんなで靖国神社に参拝する会」、「神道政治連盟国会議員懇談会」などで活躍していた頃の言動を一時棚上げする戦術をとった。政府の基本的立場としても個人としても「村山談話」や「河野談話」を継承することを言明したのである。彼が政権の本来的な使命と考える憲法や教育基本法の「改正」を遂行するに当たって、外交面からのプレッシャーを弱めなければならないとの思惑が働いたものと思われる(米国、財界筋からの圧力もあった)。小泉前首相は、この矛盾を大衆政治家という彼の個性で国民のナショナリズムの感情を煽りながら突破しょうと考えた。しかし、それは、極右的本性を隠しながらソフトムードを売りに進む安倍首相にはできないことであった。
安倍首相が、「村山談話」や「河野談話」の継承を認めた直後に下村博文官房副長官は「河野談話」について「もう少し事実関係をよく研究し、時間をかけて、客観的に科学的な知識を収集し考えるべきだ」と、見直しを示唆する発言を行った。安倍を首相に担ぎ上げた右翼集団の一つ「歴史教育議連」の中心メンバーとして我慢できなかったのであろう。

「慰安婦」否定派は、なぜ執拗にその存在を抹殺したがるのか。否定論者の代表のひとり上田清司埼玉県知事は「後世の日本政府が証拠もないままに、日本軍は強制的に徴用した、いわゆる従軍慰安婦を同行させながら戦っていたと認めた今の状態が続くとなると、祖国や家族を守るために命をかけて戦った英霊はうかばれない、英霊の家族にしても耐えられないと私は思います」と語っている。小林よしのりはもっとストレートである「祖国のため、お国のために戦ったじっちゃんたちを強かん魔にするのか」というわけである。
「英霊はうかばれない」にこだわる限り、戦争の歴史的事実を科学的に検証することはできない。戦争責任の問題は「一億総懺悔」、つまり国民が天皇に対して敗戦を詫びる「敗戦責任」であって、そこには「加害責任」が入り込む余地はない。しかし、歴史の事実確認によって、「慰安婦」に軍が関与した資料や証拠はたくさん出てきているのだ。軍関与を完全に否定できなくなると今度は「慰安所」の設置は、「保護的見地からのいい関与だった」という。いい関与だったかどうかは、被害者や当時を知る関係者に聞くほかない(ソウルの「ナヌムの家」を訪ねることだ)。

「慰安婦」は戦時性暴力であり、性奴隷であったというのが現在の国際的到達点である。武力紛争時の組織的強かんは法的責任を負う国際法違反行為である。「慰安婦」は“慰安(慰めて心を安らかにする)”などでは決してなくまさに小林の言うとおり、強かんの被害者その者なのだ。
安倍政権は米次期議会でも引き続き妨害工作を続けるのか。その態度が問われている。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。