プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

自民党崩壊の政治経済的背景 退場の歴史的必然性

2009-07-19 21:22:02 | 政治経済
21日の衆院解散、8月18日公示―同30日投開票の日程は動かないのだろうか。「麻生降ろし」を狙った両院議員総会開催を阻まれ反麻生勢力には、脱力感が漂っているという。そうかといって、今のところ党を飛び出すエネルギーもないようで、混迷のなかであえいでいるという(「朝日」2009年7月18日22時1分)。総選挙日程は、この日程でほぼ決まりなのだろう。反麻生勢力には自民党にとどまりつつ、党とは別の「マニフェスト」を作る動きもあるらしいが、小選挙区比例代表並立制のもとで、比例区は政党名で投票する。第一自民、第二自民はないわけで、そんなことが通るはずもない。小選挙区で民主党候補者に負ける恐怖から、ここに至って慌てふためいているようだが、派閥連合「自民党」フランチャイズ政党として、中選挙区制を前提とした自民党はとっくに壊れているのだ

麻生太郎首相はなんとか解散断行によって主導力を示そうと必死である。しかし、もはや政権政党の責任者として政権のビジョンを語る意欲もない。総選挙での敗北をすでに予想しているかのようである。「麻生首相の写真が載ったマニフェストなんて国民に配れない」という中堅議員がいるかと思えば、首相自身がマニフェストの表紙から自らの写真をはずすよう指示するという“弱気”である。世界同時不況の前から、日本の政治経済は、あちこちで行き詰まっていた。世の中が混乱しているのだから、ずるずる現状を引き延ばさないで、早急に手を打たなければならない。しかし、これは麻生首相に限ったことではないが、世襲議員は、物事を論理的に突き詰めて考えることができていない。解散も決断できず、ここまでズルズルときた。
自民党は17日、細田博之幹事長を責任者とする選挙公約(マニフェスト)作成委員会の会合を開き、来週中にマニフェストを策定する方針を申し合わせた。席上、細田氏は「野党と大いに選挙公約を通じてたたかっていかなければいけない」と強調したが、その公約づくりは少数幹部によるもの。総選挙突入なのに、いまだ自民党が国民に掲げる旗印さえみえない。麻生首相は日本をどういう方向に持っていこうとしているのかまったく見えない。

今の自民党の混乱状態は、小泉元首相が「自民党をぶっ壊す」と言っていたことが現実になったようだ(早房長治・元朝日新聞編集委員「今の日本 変えなければ」「しんぶん赤旗」2009年7月18日)
自民党長期政権を支えたのはいうまでもなく、日本経済の高度成長であった。政官業の癒着体制のも、経済成長を第一とする日本型開発主義によって今の中国と同じような高度経済成長を達成したのである。<企業社会+利益誘導型ケインズ主義>というシステムが中選挙区制のもと、社会党など野党と適当に役割分担しながら、自民党長期政権を支えた。大企業本位の経済成長政策による果実が、国民各層に滴り落ちる、いわゆるトリクルダウン(trickle-down)効果が機能し、社会統合が安定しているとき、自民党政権も各派閥間の政権交代で長期に安定的な政権維持が可能であった。
ところが、小泉政権発足以前の90年代に入ると、日本の重化学工業の生産設備やインフラ整備は、国内的には飽和・過剰状態となり、コスト競争力が低下したなかで、資本の海外進出を本格化せざるを得なくなった。また国内の中堅・中小企業も、東南アジア諸国企業の発展とともにいよいよ激烈なコスト競争にさらされることとなった。小泉は、このような資本蓄積における環境変化に対応するために、財界・大企業の期待を一身にうけて、自民党の看板のもとで、もたつく自民党を「ぶっ壊す」作業をやった。小沢一郎は、第一段階の「自民党ぶっ壊し」をやり、最終的に社会党を壊滅させることに成功したが、新自由主義「構造改革」の旗を小泉に奪われてしまった

こうして、日本型開発主義(<企業社会+利益誘導型ケインズ主義>)の完全な行き詰まりとともに、自民党は最後の断末魔を迎えた
まず、自民党の地方組織の解体・マヒが進んだ。利益誘導型ケインズ主義を十分に実行できなくなったからである。第二に自民党内で派閥の機能が壊れてしまった。派閥が人を育て、派閥間競争が自民党を支えてきた。中選挙区制を前提とした派閥連合の自民党は、小選挙区比例代表並立制による派閥機能の衰退とともに衰退する運命にあった。第三に、第一、第二とも関連するが、人材が極端に乏しくなったとことだ。世襲議員が4割を超えるというのは、世界的にも異常である。地盤、看板、政治資金を引き継いで、庶民の苦労もわからない、論理的思考もやったことがない者にまともな政治ができるわけがない。

小泉は、自民党を「ぶっ壊す」作業をやりながら、自民党を延命させたが、そのような手品がいつまでも通用するはずがない。自民党の退場は、歴史的必然なのだ。


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