プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

田母神氏はなぜ簡単に切られたか  靖国派原理主義=いわゆる“民族派”が抱える矛盾

2008-12-03 19:25:58 | 政治経済
田母神氏が免職にもならず、七千万円ともいわれる退職金を受け取り退職した。しかし、靖国派の総本山・日本会議国会議員懇談会の会長を務めたこともある麻生首相でさえも田母神氏を護ることができなかった。歴史認識問題を中心とした靖国派原理主義=いわゆる“民族派”は繰り返し現われ、その影響力を無視することはできないが、彼らの時代錯誤的・復古主義は、グローバル資本主義時代を迎えている現代の支配層(アメリカ・日本の多国籍企業)にとって妨害となるたびに頭を叩かれる運命にある。靖国派の「期待の星」安倍元首相が「慰安婦」問題で昨年、アメリカ政府に謝罪をせざるを得なかったのは、そのことを象徴的に示すものだ。

アメリカ・財界という支配層の意向を熟知する石破茂前防衛相は、自身のブログ(「田母神・前空幕長の論文から思うこと」2008年11月 5日)で次のよう書いている。
<田母神(前)航空幕僚長の論文についてあちこちからコメントを求められますが、正直、「文民統制の無理解によるものであり、解任は当然。しかし、このような論文を書いたことは極めて残念」の一言に尽きます。><日中戦争から先の大戦、そして東京裁判へと続く歴史についての私なりの考えは、数年前から雑誌「論座」などにおいて公にしており、これは田母神氏の説とは真っ向から異なるもので、所謂「民族派」の方々からは強いご批判を頂いております(その典型は今回の論文の審査委員長でもあった渡部昇一上智大学名誉教授が雑誌「WILL」6月号に掲載された「石破防衛大臣の国賊行為を叱る」と題する論文です。それに対する私の反論は対談形式で「正論」9月号に、渡部先生の再反論は「正論」11月号に掲載されています。ご関心のある方はそちらをご覧下さい)。><田母神氏がそれを読んでいたかどうか、知る由もありませんが、「民族派」の特徴は彼らの立場とは異なるものをほとんど読まず、読んだとしても己の意に沿わないものを「勉強不足」「愛国心の欠如」「自虐史観」と単純に断罪し、彼らだけの自己陶酔の世界に浸るところにあるように思われます。><在野の思想家が何を言おうとご自由ですが、この「民族派」の主張は歯切れがよくて威勢がいいものだから、閉塞感のある時代においてはブームになる危険性を持ち、それに迎合する政治家が現れるのが恐いところです。>

アメリカも財界も「民族派」の威勢のよさが国際問題とならず、国内のたわごとで終わっている間は、ことさら目くじらをたてない。しかし、その主張がいき過ぎて「対米従属」の枠をはみ出す排外的民族主義となったり、自分たちの東アジア支配の戦略をはみ出すとこれにクギを刺さざるを得なくなる。
グローバル資本主義時代を迎えて東アジアは、日米支配層にとって、直接投資先としても製品市場としてもなくてはならない存在である。東アジアの労働者に機嫌よく働いてもらい、気持ちよく製品を買ってもらわなくてはならない。それをなぜ、いまごろ戦前の日本帝国主義を美化し、資本活動の妨害をするのか。東アジアの彼らにグローバル秩序を守らせ、反乱を起こさせないようにするためにこそ日米同盟があるのではないか。わざわざ反感を買うとはなにを考えているのか。自分たちの苦労をなにもわかっていないということになる

戦後、直前まで「鬼畜米英」を叫んでいた戦時日本の支配層は、その「鬼畜」に従属することを条件に戦後も国内の支配者としてその地位を保障された。その最大の恩恵を受けたのが侵略戦争の最高の責任者・天皇裕仁であり、A級戦犯でありながら無罪釈放された岸信介らであった。多くの日本人とって、戦争はもうこりごりだという気持ちは残ったが、アジア諸国に対する侵略の加害行為を内省するチャンスはなかった国民は天皇の臣民であり、天皇裕仁になんのお咎めもないのだから、それは当然の流れであった。「民族派」の主張が歯切れがよくて威勢がいいのは、そのためである。ただ、「民族派」が絶対に忘れてはならないのは、「鬼畜」に従属する限りにおいて自己の存立があるということだ。だから「日本は嵌められた!」などとゆめゆめ言ってはならないのだ

それにしても自衛隊というのは、実に奇妙な存在である。軍隊でありながら、日本国憲法の平和主義のタガをはめられ、しかも米軍の一部というタガをかけられ、一体どうすればいいのだというのが、田母神氏らの気持ちだろう。「日本から一歩そとに出ると軍隊だ。日本に帰ってくると軍隊でないといわれる」「自分の国を自分で守る体制を整える」といえば「日米同盟の考え方とは異なる」といわれる。
憲法を蹂躙してきた矛盾の上に米軍の補完部隊であるという矛盾―この二重の矛盾をどう解きほぐすのか―日本国民に与えられた課題である。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。