北朝鮮核問題をめぐる6カ国協議が12月8日から北京で開催されることになった。次回首席代表会合の最大の焦点は、米朝間で合意したといわれる核計画の検証方法について、6カ国協議の合意文書としてオーソライズできるかどうかである。来年1月までのブッシュ米政権任期中に6カ国協議が行われるのはおそらく今回が最後となるだろう。イラク、アフガンで米国の権威を失墜させたブッシュ大統領にとっては、オバマ新政権発足時までに、核施設の無能力化などからなる第二段階の完了にめどをつけ、退陣の花道としたいところだろう。
それにしても、重病説が伝えられていた金正日(キムジョンイル)総書記や北朝鮮内部は、いまどんな情況なのだろうか。私は11月29日、アジアプレス・インターナショナルの石丸次郎記者から、最新内部映像などをみながら計画経済が行き詰っている“北朝鮮のいま”を聞く機会をもった。
北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議は、7月の首席代表会合から5カ月ぶりとなる。7月の首席代表会合では、検証方法について、(1)核施設への立ち入り調査(2)追加文書の提出(3)核技術者らへの面接・聴取―の3原則で一致。しかし米国が8月、北朝鮮に対するテロ支援国指定の解除を延期したことから、北朝鮮は核施設無能力化の作業を中断し、施設再稼働に向けた逆の動きを本格化させた。
この間、金正日総書記の重病説も流れたが10月、米首席代表のヒル国務次官補が訪朝、検証方法についての米朝合意が成立し、テロ支援国指定も解除。米朝合意を6カ国の合意として確認するための6カ国協議の開催が次の課題となっていた。
10月11日の米国の北朝鮮に対するテロ支援国家指定の解除にさいしては、日本などから検証手順と体制にかかわって米国の安易な妥協があったのではないかとの意見もあったが、今回の6カ国協議で最終確認することになるのだろう。
9月中旬には、米中、米韓で北朝鮮の体制崩壊などに備えた協議が真剣に行われていたようだが、金正日総書記の健康悪化説を別としても、北朝鮮の経済的下部構造の変革は避けられないところまで来ているというのが、アジアプレスの現場報告を聞いた私の率直な感想である。ソ連、東欧圏は、経済的下部構造の変革が不可避となり、政治的上部構造が崩壊した。中国、ベトナムは、政治的上部構造が崩壊するまえに改革・解放を行い、経済的下部構造の変革に上から着手した。
金総書記の容態は少し安定しているようだが、ソ連、東欧圏のような共産党政権(北朝鮮は朝鮮労働党)の崩壊に進むのか、中国、ベトナムのような上からの改革・解放型になるのか、私には予測できない。
ただ、石丸さんの現場報告は、経済的下部構造の変革が差し迫った沸点に近づいているということを確信させる内容だった。
北朝鮮は、世界最強と言ってよい情報鎖国国家であり、外部の者はなかなか入国できない。仮に入国できても、制約だらけで自由な取材はまったく望めない。石丸さんは中国との国境周辺をウロウロしながら取材を試みたが、それにも限界があるということで、石丸さんは、彼からジャーナリストとしての教育を受けながら協力してくれる内部記者を育成することにしたという。内部記者の取材には危険が伴い、まったく自由にというわけにはいかないが、それでも一般民衆の暮らしや考え方の一端をリアルに伝えてくる。
私がいくつか見せてもらった映像は、北朝鮮の社会主義計画経済が機能マヒに陥って、国民生活に必要な食糧物資などの生産・流通が政府でコントロールできない状態になってしまっていることを赤裸々に映し出していた。人々は、政府のコントロールのそとで自発的・自然発生的に市場経済を始めている。
市場に運ぶ商品はほとんど中国からのものらしい。食糧援助で入ったコメは、軍などから横流しされ、市場では豊富なコメが売られている。画面では商品を運ぶ特製リヤカーが当局の取締りを受けていた。ちなみに運搬に使う自転車はほとんどが日本から中古自転車ということだ。日本の経済制裁が影響を与えているかもしれない。
配給システムが機能マヒし、市場経済が地下経済として発達し始めているのがいまの北朝鮮の情況である。いまのところ職場に出勤しなくてもよい家庭の主婦や女性たちが市場経済の担い手となっている。
北朝鮮が生産・流通を正常化するためには、改革・解放による市場経済の導入以外にいまの困難を打開する道はないと思われる。
第一次取材をしないで、二次三次情報をもとに固定した「北朝鮮像」しか流さない日本の一般マスコミにとらわれていると変化する北朝鮮情勢の理解を誤るだろう。まず、第一次情報をつかもうとするアジアプレスの試みを応援していきたい。
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