プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

「ナクバ」63年  エジプト革命とパレスチナ問題の行方

2011-05-29 20:54:23 | 政治経済

515日は、1948年にヨーロッパ・ユダヤ人が先住民(パレスチナ人)を武力で一方的に追放してイスラエル建国を宣言してから63年目の日であった(パレスチナ人はこの日を「ナクバ」の日という)。ユダヤ人が自分たちの場を見つけることは、同時にパレスチナ人が自分たちの場を失うことであった。爾来、イスラエルによるパレスチナ占領は、パレスチナ人の追放と離散を意味した。家族の分断、イスラエル軍によって組織的に否定される人権、何千人もの拷問、次々と奪われる土地、断片的な空間に押し込められ持続的な経済の破壊、封鎖、外出禁止。土地を分断し、孤立化させ、人間の気力を弱らせ、人格を破壊することを同時に行えば、人びとは、政治的、経済的、社会的、さらに精神的に結束できなくなる。こうして、パレスチナ人は、一つのまとまりをもった政治的・国家的主体者ではなくて、人道支援の対象者、つまり「物乞い」に貶められてきたのだ。米欧が支配する国際社会は、そのような状態を見て見ぬ振りをして是認してきた。しかし、アラブ世界で、米欧イスラエル支配体制を支える重要な一角を占めていたエジプトで125日革命が起きた。「パンと自由と人間の尊厳」を掲げたこの革命はサダト―ムバラクによる「キャンプ・デービット体制」の崩壊でもあった。米国からの援助と引き換えにパレスチナ人に対するユダヤ人の不正義を見て見ぬ振りをしてきたアラブ世界の有力国家が一つ減ったということだ。

 

パレスチナ・ヨルダン川西岸、ガザ地区と、レバノンのイスラエル国境付近、シリアのゴラン高原などで15日、イスラエルの占領に抗議する集会・デモが行われた。イスラエル軍は参加者らに砲撃・発砲し、シリアとレバノン国境では計12人が死亡した。イスラエルのレイシズムに基づく暴力体質は、その占領支配の不当性が明らかになるほど今後いっそう凶暴化するかも知れない近年、「ナクバ」の日に大規模な抗議行動が実施され、死傷者が出た例はないという。英BBCは、今回の大規模抗議行動は、中東・北アフリカの民主化運動に触発されたとの見方を示した(「しんぶん赤旗」2011517日)。

エジプト政府は28日午前9時、パレスチナ自治区ガザ地区との唯一の出入り口であるラファ検問所の常時開放を開始した。米欧イスラエル支配体制に組み込まれた旧ムバラク政権は、イスラエルの軍事占領にかたくなに抵抗するハマスが実効支配するガザをゲットー化したうえでパレスチナ人へのテロ攻撃を繰り返すイスラエルに協力して、出入り口を塞いできた。ゲットー化を完成するためには、出入り口は一つも存在してはならないからである。ラファ検問所の常時開放は、イスラエルの不当性がまたひとつ証明されたということだ。

 

オバマ米大統領は19日、国務省で中東政策について演説し、イスラエルとパレスチナ国家の国境線について、1967年の第3次中東戦争でイスラエルが占領地を拡大する前の境界線に基づき決めるべきだと主張した。イスラエルはアラブ諸国と戦ったこの戦争で占領地を一気に拡大し、東エルサレムやヨルダン川西岸などでユダヤ人入植者用の住宅地を建設、隔離壁やユダヤ人専用道路などによって、パレスチナ人に対する分断支配を拡大し続けてきた。オバマ氏の演説を文字通りに受け取れば、イスラエルにこれらの入植地からの撤退を求めることになるが、イスラエルのネタニヤフ首相が撤退を拒否すると、オバマ氏は、米国は揺るぐことなくイスラエルの安全保障を支える、完全撤退は必要ない、双方の交渉によるとした。ちょっと恰好をつけてみたもののイスラエルの言い分を従来通り支持するということだ。最近、中南米諸国を中心にパレスチナの独立国家承認の動きが出ていることを意識してみせただけであった。

 

パレスチナ解放機構(PLO)主流派のファタハとパレスチナの選挙で選ばれた正当な代表であるハマスがこのほど、エジプトの仲介で4年近くの敵対関係に終止符を打つことに同意した。双方は、年内に選挙を実施し暫定政府を樹立することに合意した(ファタハが国際社会の窓口になっていたのは、米欧イスラエル支配体制が作り上げた虚構である)。米欧イスラエル支配体制は、PLO主流派のファタハを援助と引き換えに抱き込み、パレスチナ人に分断を持込み、ハマスをガザに閉じ込めてきたのだ。これまで、国際世論はイスラエルの植民地支配に抵抗する真っ当なパレスチナ人の代表であるハマスをあたかもテロ集団かのように誘導する米欧イスラエル支配体制にまんまと乗せられ、結果として、イスラエルのパレスチナ人支配を側面援助してきた。

パレスチナ問題の根源は、ユダヤ人が先住民(パレスチナ人)を武力で一方的に追放してパレスチナの土地を占領したことにある(ホロコーストは言い訳に使われただけである)。ユダヤ人がパレスチナの大部分の土地を奪い、パレスチナ人が一つのまとまりをもった国家を形成することが政治経済的にも困難になったいま、パレスチナ、イスラエル、二つの国家が共存し、それぞれの自決権と相互信頼をもつと言ってもその実現は並みや大抵でない(国境線画定の基準がない)。私たちは、アパルトヘイトを克服して、黒人と白人が対等に一票をもって、一つの国家のもとに共存する南アフリカの教訓を学ぶべきかも知れない。

 


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