相次ぐ規制緩和が生んだワーキングプアや偽装請負、日雇い派遣労働者の苛酷な運命を改善するためは、派遣法の抜本改正が喫緊の課題になっている。にもかかわらず昨年末厚労省は、不安定雇用を続けようという財界側の圧力に屈して、派遣法改正の見送りを決めてしまった。その埋め合わせのつもりだろうか、厚生労働省は、グッドウィルに事業停止命令を出すとともに、1月16日には、日雇い派遣で働く労働者の権利保護などを盛り込んだ指針を、同日の労働政策審議会の部会に提示した。しかし、こんな小手先で若者の貧困問題は解決しない。
「労働者階級の状態は、現存の社会的困窮の最高の、最も露骨な頂点であり、したがって、また現代のあらゆる社会運動の実際の土台、出発点である」(エンゲルス「イギリス労働者階級の状態」序文)。若者の貧困問題を「自己責任」だという人びとは、「貧困ビジネス」(貧困層をターゲットにした消費者金融、派遣・請負業やフリーターが寝泊りするレストボックスなどのビジネス)の食いものにされている労働者階級の状態をまずつぶさに知ることである。
NPO法人自立生活サポートセンター「もやい」(東京都新宿区)の事務局長を務める湯浅誠さんは、「生活困窮フリーターは『五重の排除』により“タメ(溜め)”がない」と言う。
(1)低学歴(例外もある)。つまり学校教育から早期に排除されている。
(2)継続的に雇用されないことで、失業保険、社会保険をはじめとする企業福祉、または福利厚生から排除されている。
(3)さまざまな事情で、社会保障の含み資産である家族福祉から排除されている。
(4)高齢ではないため、その権利はあるにもかかわらず、生活保護などの公的福祉から排除されている。
そして(1)から(4)までの排除の結果として、「こうなったのは自分のせい」だとか「自分は生きる価値がない」と思い詰め、自分自身からも排除されている状態になることが「5つ目の排除」だという。
“タメ(溜め)”がない人間には、「自己責任論」がいうような本人の選択の余地がない。ひと月分の生活費・家賃と仕事に行く交通費の蓄えという「溜め」がない人には、月末給与払いの常用の仕事は選べない。その日の生活費にも困っている人は、日雇い、日払いの仕事としか選べない。「もうちょっと、どうにかできたはずじゃないか?」といわれても、就活やって常用の仕事に就くだけの「溜め」がないのだ。湯浅さんは続ける。「貯蓄という金銭的な“タメ”がないだけでなく、助け合ったり、愚痴を言ったりできる人間関係の“タメ”がないことで、気持ちの余裕も持てず、精神的にも不安定になりやすいということもあります。皆さんのいる環境は、全て自分が努力して作ったものでしょうか。当たり前だと思っている自分の生活を見回してみると、有形無形の“タメ”に気がつくでしょう。例えば、野宿生活をしている人にとって雨は一大事でも、住む家がある人にとっては”あぁ、雨か”と思う程度でしょう。雨露を凌ぐという家の基本的な機能も、重要な”タメ”の一つです」
そんな“タメ”のない生活困窮フリーターも市場から排除されているわけではない。むしろ「貧困ビジネス」のターゲット、食いものになっているのだ。日銭が必要なため条件が悪くても働かざるを得ないということにつけこむ日雇い派遣や請負業、生活苦から借金をすることにつけこむ消費者金融、まともなアパートを借りられないことにつけこむ漫画喫茶やフリーター向けの飯場=レストボックスなどである。貧困ビジネスがターゲットにしているのは、貧困者の労働と消費の両方であり、貧困者の生命そのものを収益源にして生き血を吸う。グッドウィルの事業停止は、氷山の一角である。
厚生労働省の16日の指針は、「データ装備費」など横行している給与からの不正な天引きについて禁止を明記。集合場所から就労現場まで拘束時間の賃金を支払わない問題についても賃金の支払いを命じた。これらは現行法でも認められない違法行為であり、当然の規定である。グッドウィルのような二重派遣を防ぐために、派遣元と派遣先に、労働者からの聞き取りや就業場所の巡回などを求めているが、そもそも違法派遣は、派遣元と派遣先が共謀しているのが実態でこんなことをいってもほんど意味がない(「しんぶん赤旗」1月17日)。
若者の貧困問題に立ち向かうためには、彼らだけに任せておけない。自ら団結して立ち上がるだけの力が彼らにはないからだ。ナショナルセンターの枠をこえた広範な既存労働組合、反貧困ネットワークのような市民運動、新しい労働組合、革新政党などの一致した「貧困打開」の大運動が必要だ。
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