プロメテウスの政治経済コラム

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欧州 緊縮策にノー  ヨーロッパを覆い尽くす苦境からの脱出の道筋は ?

2012-05-08 20:57:54 | 政治経済

欧州で緊縮財政を進めてきた政権に、国民の厳しい審判がまた下った。6日のフランス大統領選決選投票で現職のサルコジ氏が社会党のオランド氏に敗れ、同日のギリシャ議会総選挙では、連立を組んできた2大政党が惨敗した。債務危機の表面化以来、ポルトガル、ギリシャ、イタリア、スペインなどユーロ加盟各国で政権交代や指導者の退陣が相次ぐなか、今回も国民は、明確な「ノー」の審判を突きつけた。「財政均衡」を旗印にして責任を国民に押し付ける路線は、賃金引き下げや社会保障の削減・庶民増税などの弱肉強食の新自由主義の立場に立つものであり、福祉国家(=社会的市場経済)という欧州社会モデルの基盤を掘り崩すものである。その根底にあるのは、グローバル化と経済の金融化の道以外に資本蓄積の困難(過剰蓄積による利益率の低下)の打開策を持たない現代資本主義の病弊である。「緊縮のわな」からの脱出が、現代資本主義の根本的な病弊を治癒することができるかどうか未だ先は見えない。ただ、大金融資本や投機筋の利益を第一に考える政策から、雇用を増やし、経済成長を図りながら財政危機を打開する端緒に立ったということだ。


6日に行われたフランス大統領の決選投票で、オランド氏(社会党)が、現職のサルコジ氏(国民運動連合)を下し新大統領に当選した。社会党大統領の誕生は故ミッテラン大統領が退陣した1995年以来、17年ぶりである。サルコジ政権からの「変革」を訴えたオランド氏の勝利を決定づけたのは、「金持ち側の大統領」と批判されてきたサルコジ政治への不満であり、国民犠牲の緊縮策への反発であった。サルコジ氏は大統領就任(2007年)以降、週35時間労働制や日曜休業制の緩和など労働分野での規制緩和を進め、退職年齢・年金満額受給年齢の引き上げや6万人の教員削減など緊縮策を実施してきた。その結果、「下げる」と公約していた失業率は逆に10%まで上昇し、失業者数は5年間で75万人近く増えた。

6日投開票のギリシャの総選挙(1院制、定数300)では、大連立で緊縮政策を実行してきた二大政党(全ギリシャ社会主義運動と新民主主義党)が、合計議席でも過半数割れするという史上初の事態となった。第1党は新民主主義党(ND)の108議席。得票率1位の政党に50議席を加算する制度があるため、前回より議席は増やしたものの、得票率では前回の約33%から19%へ激減した。前回選挙で単独過半数を占めた全ギリシャ社会主義運動は41議席で第3党に転落。得票率を前回の約44%から13%へ激減させた。両党の獲得議席は前回比で102議席減、得票で6割近くを失う歴史的大敗となった。他方、緊縮反対の左派・急進左翼連合は前回比で、得票率を3倍強、議席を13から52に伸ばす大躍進で第2党となった。緊縮反対派の他の政党も議席を伸ばし、ギリシャへの融資と引き換えに欧州連合(EU)と合意した緊縮路線に反対する国民の強い意志を示した。財政緊縮策や構造改革が約束通り、実行されなくなると金融市場の混乱は避けられないだろう。

緊縮策は経済成長を弱め、(実物)投資を減らし、失業を増やす。皮肉にも政府財政の悪化に跳ね返り、さらに緊縮策を必要とする羽目に陥る。「緊縮のわな」である。規制緩和しても大企業・金融資本は、搾取と収奪を強めるだけで、過剰生産(生産と消費の矛盾)のもと、金融投資・投機に走るだけである。このままでは、国民の生活水準は悪化する一方である。
緊縮路線に代わる政策が求められていることは、確かである。新自由主義的な政策をとってきたサルコジ氏に対し、オランド氏は緊縮政策に反対し、経済成長の必要を主張。サルコジ氏がドイツのメルケル首相とともに推進してきた、欧州連合(EU)加盟各国に厳しい財政規律を課す新条約についても、見直しを求めている。
問題は、富裕層・大資産家や大企業をもうこれ以上甘やかすことを止めることができるかどうかである。グローバル化のもと、富裕層・大資産家や大企業は、国家の制約を逃れ、応分の負担を回避し、富を溜め込みながら、生産に投資しないできた。

耐久消費財部門や素材産業を中心とする生産財部門における過剰生産の顕在化、貿易財部門における国際競争の激化にともなって資本蓄積の困難に直面した先進資本主義諸国では、企業部門の実物投資抑制と雇用削減、内部留保増大と財務活動の活発化が一般的となった。各国政府は、富裕層・大資産家や大企業の儲けを維持・拡大させるために、労働市場の規制緩和を行い、小さな政府を標榜して、金融市場の膨張と金融産業の肥大化を促進した。こうして、経済の金融化と労働者の生活水準および労働条件の悪化が資本の過剰蓄積の主要な現象形態となった。実物経済における明確な過剰生産恐慌の発現を先送りするために、金融緩和によるバブルが絶えず要求される。財政悪化を伴って経済の金融化を進行させている現代資本主義のもとでは、経済変動は好況期における過大な設備投資とその周期的廃棄という形ではなく、もっぱら証券、不動産、資源エネルギー他のバブルとその崩壊、これに付随して頻発する通貨・金融危機・財政危機として表れる(高田太久吉「欧州経済統合の矛盾と金融・財政危機」『前衛』2012.3)。

「緊縮策にノー」の道が、ヨーロッパを覆い尽くす苦境からの脱出につながるかどうかは、富裕層・大資産家や大企業の横暴を抑え、現代資本主義の病弊を克服することができるかどうかと切り離せない。

 

 


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