プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

金賢姫元工作員の来日   拉致問題が解決しないのは出発点でまちがった!?

2010-07-22 21:08:22 | 政治経済
金賢姫元北朝鮮工作員が20日未明、羽田着のチャーター機で初来日した。政府チャーターの小型ジェット機が午前4時前、東京・羽田空港に着陸し、白いスーツにサングラス姿の金元工作員は警備関係者らが大きな傘で覆い隠すなか、待機していた黒塗りの乗用車に乗り込み、異例の厳戒態勢下で、長野県軽井沢町の鳩山由紀夫前首相の別荘に向かった(「Searchina」7月21日11時8分配信)。
拉致被害者家族にとっては、これが直ちに拉致問題の進展に繋がらなくても、どんな情報でも、金賢姫元工作員から聞けたらという思いだろう。拉致は北東アジアの政治的対立のなかで、北朝鮮によって惹き起こされた国家犯罪である。したがって拉致問題の解決は、政府対政府の交渉によるほかない
2002年9月17日、日朝平壌宣言が締結され、拉致問題解決の糸口をつかんだ。しかし、その後紆余曲折があったが、結局、事態は膠着したまま今日に至っている。日本政府も韓国政府も米国との同盟の罠にはまり、朝鮮半島の対立を煽って、双方が交渉のテーブルにつく状況でないからである。

 金元工作員と初めて会った拉致被害者、横田めぐみさんの父、滋さん(77)と母、早紀江さん(74)が22日午前、長野県軽井沢町で記者会見し、めぐみさんに関する新たな証言はなかったと明らかにした。滋さんは「真摯(しんし)に対応してもらった」と感謝したが「新しいことはなかった」と述べ、早紀江さんも「一番知りたいことは分からなかった」とした。金元工作員の説明では、日本語を教えていた同僚工作員の「金淑姫(キム・スクヒ)」に誘われてめぐみさんと会い、めぐみさんがつくったチヂミを3人で食べたという。「会ったのは1度だけ」とし、時期や場所は特定しなかった。早紀江さんは別れ際、元工作員と抱き合い「めぐみさんは絶対生きています。あきらめず、希望を持って」と言葉をかけられ、「とても勇気づけられた」と語った(「産經」2010.07.22)。
――ここに、今回、日本政府が金賢姫元工作員の来日を招聘した目的がすべて語られている。拉致被害者家族の皆さんにとっては勇気づけになったかもしれないが、何カ月も前から準備をしていた話であり、拉致問題解決に向けた新しい情報が今更得られるわけではなく、「日本政府がこれまでの怠慢からわざと注意をそらすために仕組んだパフォーマンス」(英ガーディアン紙)の域を出るものではない。

 2002年9月17日、日朝平壌宣言が締結され、拉致問題が日朝間の公式議題となった。しかし、五人生存、八人死亡という北朝鮮側の一方的な情報について、具体的な証拠に基づき、双方が検証するという取り決めがないために、その後、紆余曲折があったが、結局、事態は膠着したまま今日に至っている。
日朝平壌宣言には確かに、「双方は、相互の信頼関係に基づき、国交正常化の実現に至る過程においても、日朝間に存在する諸問題に誠意をもって取り組む強い決意を表明した」(1項 第2パラグラフ)とあるが、五人生存、八人死亡の検証が「日朝間に存在する諸問題」に含まれるのかどうか明確に話し合ったわけではなさそうだ
蓮池透さんは、外務省担当者とのやりとりを振り返り、国交正常化をおこなうために、拉致問題をこの一日(9・17)で終わらせようとした水面下の日朝密約があったのではないかと指摘している。つまり、拉致問題は北朝鮮が事実を認めて謝るだけでいい、そうすれば国交正常化に進もう、というシナリオである(蓮池透『拉致 左右の垣根を超えた闘いへ』かもがわ出版2009)。

 日朝平壌宣言にある、拉致問題に関係すると思われる記述は、「日本国民の生命と安全にかかわる懸案問題については、朝鮮民主主義人民共和国側は、日朝が不正常な関係にある中で生じたこのような遺憾な問題が今後再び生じることがないよう適切な措置をとることを確認した」とあるだけである。再発防止を確認したが、現に未解決となっている過去に惹き起こされた拉致問題を双方の努力で解決するとはなっていない。
あとは、「双方は、・・・国交正常化を早期に実現させるため、あらゆる努力を傾注することとし」、「また、双方は、核問題およびミサイル問題を含む安全保障上の諸問題に関し、関係諸国間の対話を促進し、問題解決を図ることの必要性を確認した」のだった。

外交関係では、政府間の合意や取り決め、宣言などが重要な位置を占めることはいうまでもない。五人生存、八人死亡を前提に、謝罪すれば、国交正常化の交渉に進むという日朝平壌宣言は、国交正常化への道を急ぐあまり、拉致問題を十分につめないまま、署名してしまった北朝鮮側から見れば、金正日総書記が拉致を認め、謝罪し、再発防止を誓ったのだから、次は日本側の対応となる。しかし、聞こえてくるのは、日本国民の北朝鮮に対する憎しみ、怒りばかりである
拉致問題を軽視したばっかりに、日本政府は、今日の混乱、膠着を招いてしまったのだ。
今となっては、日本、韓国が米国との同盟の罠に填まり、北朝鮮を挑発し、孤立化させるのではなく、南北朝鮮の平和と安定に向けた努力の中で忌憚のない交渉によって拉致問題を解決していくほかないように思われる。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。