プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

尖閣漁船衝突事件   いついかなる時でも事実と道理が原則

2010-09-20 19:15:42 | 政治経済
9月7日、沖縄県の尖閣諸島・久場島の沖合15キロの海上で、中国のトロール漁船が、違法操業を捜査しようと追いかけてきた日本の海上保安庁の巡視船を振り切ろうとして衝突し、船長らが公務執行妨害で海保に逮捕される事件が起きた。送検された漁船の船長の拘置期限を19日、10日間延長することになったため、中国政府は「強烈な報復措置」を警告するなど激しく反発、日中間の対立が長期化する可能性が出てきた。
中国には気に入らないかもしれないが、尖閣諸島(中国語名は釣魚島)は「国際法」上、日本の領土であることに間違いはない。領土問題が絡むと国どうしというのは、どうも熱くなってしまいがちであるが、領土問題の論じ方についても、いかなる時でも事実と道理が原則である。どういう論拠で、その領有権を主張しているのか、相手側の言い分を理解すれば、お互い冷静になれるだろう

 漁船の「違法」操業問題は、日常的によくある話だ。今回だけでなく、また日本だけでなく、いろいろ起こっている。北方領土海域で操業する日本漁船がロシアに拿捕されることもあれば、日本沿岸で操業する韓国漁船を日本が拿捕したこともある。領土問題が絡むと政府というものは、国民の前で良い恰好をしたがり、国民もまた熱くなりがちである。尖閣諸島問題について言えば、日本の領有は「主権の継続的で平和的な発現」という「先占」(無主の土地を最初に占有すること)の要件に十分に合致しており、「国際法」上も正当なものである

 尖閣諸島は、古くからその存在について日本にも中国にも知られていたが、いずれの国の住民も定住したことのない無主の土地であった。1884年に日本人の古賀辰四郎が、尖閣諸島をはじめて探検し、翌85年に日本政府に対して同島の貸与願いを申請した。日本政府は、沖縄県などを通じてたびたび現地調査をおこなったうえで1895年1月14日の閣議決定によって日本領に編入した。沖縄県の所轄とし、日本人が居住してかつお節工場がつくられるなど、日本の実質的支配がはじまった。
この日本への編入自体は、侵略戦争などによる不当な領土拡張ではなく、歴史的には、この措置が尖閣諸島にたいする最初の領有行為であり、「国際法」上、日本の領土であることに間違いはない。日清戦争で日本が中国から略取した台湾・澎湖諸島などの地域は、第二次世界大戦後、中国に返還されたが、尖閣諸島が特に問題となることはなかった。

 中国、台湾が尖閣諸島の領有権を主張しはじめたのは1970年代に入ってからである。それ以前の中国や台湾の地図でも、尖閣諸島は自国の領域外として扱っていた(60年代までの中華人民共和国発行の全中国の地図など)。たしかに、尖閣諸島は明代・清代などの中国の文献に記述があるが、それは、当時、中国から琉球に向かう航路の目標としてこれらの島が知られていたことを示しているだけであり、中国側の文献にも中国の住民が歴史的に尖閣諸島に居住したこと(「先占」)を示す記録はない。尖閣諸島を航海の目印にしていたなどの古文書を持ちだしても、西欧列強がつくりだした「国際法」上は、意味のないことである

江戸時代末期、欧米帝国主義諸国の洗礼を受けた日本政府は、いち早く「国際法」の大事さに気が付いた(明治政府は、司馬遼太郎『坂の上の雲』が描くような、おぼこ「少年の国」でなかった)。日本は、中国より少し早く、その国際法の世界の大切さを自覚したので、国際法に基づく領土の取得を行えたというだけのことなのだ(もし、目印にすることが意味があるという「国際法」が出来ていたら、別の結論となったかもしれない―“超左翼おじさんの挑戦”2010-09-19 )。

 北緯27度以南の尖閣領海内は(97年の)日中漁業協定の範囲外だが、外交的に日中間には、尖閣について日中は敵対しないという、小平以来の了解があった。日本側は、これまで尖閣領海で、台湾や香港の船を激しく追尾しても、中国の船を拿捕・逮捕したことはなかった。日本も中国も、民間に「尖閣(釣魚台)を守れ」と主張する政治活動家がいても、政府としては対立を避ける姿勢を互いに採ってきた。その意味で今回、日本の当局が中国の漁船を拿捕し、船長を起訴する方針を固めたことは、日本が政府として対中国強硬姿勢を決意したことを意味する。
衝突の際に海保と漁船のどちらが悪かったかについて、現場に当事者以外誰もいなかった。背景になにかがあると推測するのは、勘繰りすぎか。米国WSJ紙は、菅が民主党の代表戦で小沢に勝ったタイミングをとらえ、今こそ菅は、米国との安保同盟の再強化をやるべきだという論文を載せている(田中宇の国際ニュース解説「日中対立の再燃」2010年9月17日)。

 西欧列強がつくりだした「国際法」を気に入らないといっても歴史的事実は事実である。事実を認めたうえで、その理不尽さがどうにも納得できないのであれば、国際舞台でよく話し合うことだ。相互依存がここまで進んだ現代において、いがみ合って制裁を連発してもお互いに損をするだけである。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。