プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

教育基本法「改正」  何を狙うか

2006-04-15 17:18:22 | 政治経済
与党(自民・公明)が改定案について合意し、教育基本法「改正」問題は重大な局面を向えました。密室で協議を重ね、国民に協議内容を隠し続けて足かけ3年、70回にも及ぶ議論の結果、出てきたものはいったい何を狙うか。

教育基本法はその名のとおり、日本国民が、教育に対して、基本的にどういうスタンスに立つべきかを定めた法律です。戦後2年後の1947年3月に、「教育勅語」を基本にした戦前の教育への痛切な反省のうえにつくったもので、平和憲法の精神を受け継ぎ、“憲法の理想を実現するための教育”を日本の教育の基本にすえることを明文化しました。設立経緯や条文内容からも憲法と一体性をもっており、憲法に準ずる「準憲法」と考えられています

教育基本法は、戦後保守勢力にとって憲法と並んで常に気に入らないものでしたが、戦後民主主義の枠組みを規定するものとして「改正」に容易に手を付けることができませんでした。
しかし、90年代の日本企業のグローバル化と既存社会の枠組みの変革とともに、保守政治にとってその政策遂行上、どうしても憲法「改正」と教育基本法「改正」を必要とするいくつかの勢力・要因が台頭してくることになります。

教育基本法「改正」を求めるいくつかの勢力・要因が同時に現われ、それぞれの思惑から改正案に盛り込むべきことを主張するのを密室協議でそれなりに整理し、あらかじめ予想される抵抗を考慮のうえ今回の合意案を提示したものと思われます。会見で自民党の武部勤幹事長は「(教基法改悪法案の)今国会での成立を期したい」と表明しました。

渡辺治・一橋大学教授は、教育基本法「改正」は①格差的教育の徹底と財政的保障をめざす新自由主義派②グローバル化と構造改革で破綻しつつある社会統合の再建をめざす権威派③グローバル軍事大国化の新段階にともなう大国ナショナリズムを主張する大国派など三つの潮流の台頭と圧力によって、政治日程に登場したという整理をしています。したがって教育基本法「改正」はたんに現代の教育のみでなく日本社会のあり方、日本の進路をめぐる対決の焦点となっています(渡辺治「いまなぜ教育基本法『改正』か」『構造改革政治の時代』花伝社2005.12所収)。

与党改定案には、さしあたり、現行教育基本法の民主的精神を破壊する二つの重大な問題があります。

第一は、新設する「教育の目標」で徳目的な五項目をならべたうえ、「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する」という「愛国心」を盛り込んだことです。
「愛する」という心のありようを法律で指図することは、国民の「内心の自由」の侵害につながります。東京都では、児童・生徒・教師の内心の自由を蹂躙する「日の丸・君が代」強制教育がおこなわれていますが、そうした暴挙に根拠をあたえることになります。
「愛国心はゆずれない」という、自民党の安倍官房長官をはじめとする先の分類で言えば、権威派・大国派の主張を取り込んだ形となりました。

二つめは、権力による教育内容への介入をすすめるものとなっていることです
現行基本法は、第10条で、「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負つて行われるべきものである」とさだめ、国家権力による教育内容への介入を禁止し、教育条件の整備にのみ行政の責任を限定しています。これは戦前の教育の痛切な反省のうえにつくった条文であり、教育基本法の魂ともいうべきものです。与党による改定案の内容は、この精神を骨抜きにし、百八十度変質させるものとなっています。「国民全体に対し直接に責任を負つて行われるべきものである」という部分を削除し、代わりに「(教育は)この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものであり」と規定。新たに、政府が“教育目標”と、それを達成するための“改革の基本方向”を盛り込む「教育振興基本計画」を定めるとし、政府はその都度、教育内容にいくらでも介入できる足がかりをえることになります。先の分類で言えば、新自由主義派(文科省もこの派に属しています)の主張を取り込んだものです。

全体としてこの改悪案が狙うものは、一人ひとりの子どもの「人格の完成」を目的とする教育から、憲法改悪がめざす「海外での戦争をする国」をになう人間を育てる教育への変質です
全国津々浦々で教育基本法改悪反対のたたかいを大きく前進させ、憲法改悪反対のたたかいと大きく合流させることがいま求められています。


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