プロメテウスの政治経済コラム

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日朝協議の現況をどう見るか――見えない「解決」のゴール――

2014-10-14 19:01:58 | 政治経済

安倍首相が5月29日、日本人拉致被害者を再調査することで北朝鮮と合意したと発表してから、4か月以上が経過した。現在の日朝協議の状況は、朝鮮側が「第一次報告書」を準備して日本側に打診しては見たものの、日本側が「それではダメだ」と報告書を突っぱね、事態が再び膠着したように見える。

かつて、古屋圭司拉致問題担当相は「すべての拉致被害者を取り戻す」と言い、山谷えり子現拉致問題担当相も「全ての被害者を救出し、帰国していただくのが明確な政府方針」と勇ましく言い放っている。もし日本政府は、「12人が生きて帰ってくる情報以外の報告は受け取らない」というのであれば、日朝協議の先行きは「解決」のゴールが見えず、暗い。朝鮮政府は平壌宣言署名時に「5人生存、8人死亡、4人入国未確認」と返答しており、要するに日本政府は、「死亡」と記録されている人間を「生きて戻せ」と言っているからである。

 

日本政府が発表した拉致再調査に関する日本と北朝鮮の合意文書の骨格は次の通り。

<双方は、日朝平壌宣言にのっとって、不幸な過去を清算し、懸案事項を解決し、国交正常化を実現するために、真摯(しんし)に協議を行った。

 日本側は、北朝鮮側に対し、昭和20年前後に北朝鮮域内で死亡した日本人の遺骨および墓地、残留日本人、いわゆる日本人配偶者、拉致被害者および行方不明者を含む全ての日本人に関する調査を要請した。

 北朝鮮側は、過去北朝鮮側が拉致問題に関して傾けてきた努力を日本側が認めたことを評価し、従来の立場はあるものの、全ての日本人に関する調査を包括的かつ全面的に実施し、最終的に、日本人に関する全ての問題を解決する意思を表明した。>

 

これを読む限り、日朝両政府とも今回はじめた協議で、拉致問題を含む日本人に関する全ての問題を最終的に解決したいという意思が読み取れる。

9月10日、共同通信のインタビューに応じた朝鮮の宋 日昊(ソン イルホ)国交正常化担当大使は、「現在我々は、誠実に調査をしており、ありのままの結果を報告するしかない。その報告に満足するかどうかは日本側の評価だ。私が個人的に考えるのは、日本の関係者たちがピョンヤンに来て、最初の報告を調査委のメンバーから直接説明を受けるのが良いのではないか」としながら、朝鮮が調査結果を出しても過去日本がみせた姿勢の様に、「朝鮮は嘘をついている」と言われてしまう事を懸念していた。

被害者家族が「死亡なんて報告は許さない」というのは理解できるが、政治家まで同じレベルでいいのか。朝鮮側は死亡したと言い、日本側はウソをつくなと言い、互いの主張はぶつかり合うだけである。それでは、拉致問題が一歩も前へ進まなかったこれまでと同じ轍を踏むことになるだけだ。

 

私は、<双方は、日朝平壌宣言にのっとって、不幸な過去を清算し、懸案事項を解決し、国交正常化を実現するために、真摯に協議を行った。>という冒頭部分をよく噛みしめるべきだと思う。

北朝鮮は、<けしからん国、何をしでかすか分からない国、そこに住まう貧しく劣った人々。対話の相手とさえ見られないまなざしが映し出す、自分たちの国は正しく、われわれは優れているという優越意識。そして、それこそは、かつて植民地支配を正当化するために用いられた国家の論理>(神奈川新聞2014.08.19)に縛られている限り、はじめから日朝協議は成り立たない。
しかし、「安倍首相こそは過去の歴史を正当化しようと試みる人物そのものではないか」。その口からは拉致問題解決への意欲のみが語られ、再調査の合意文書にある過去の清算、その先の国交正常化への道筋は語られることはない。


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