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過去20年間の急性腎傷害(AKI)とその治療に関する進歩と展望

2023年04月09日 | 腎臓
はじめに
Intensivist誌から執筆依頼を受けた私は、AKIとCRRT(連続腎替代療法)の特集の10年後を記念して、過去20年間のAKIに関する進歩を振り返ることにした。この記事では、エビデンスに基づく情報だけでなく、私の思い出話も交えて、AKIに関する研究の発展を概観し、今後の展望についても考察する。

AKI研究の発展の背景
私が2000年から2003年にかけてオーストラリアのDr. Bellomoのもとで留学していた頃、ICU患者の多くが腎機能障害を患っていたものの、その研究はほとんど進んでいなかった[1]。しかし、2004年にAKIの研究が一気に活性化し、ADQI(急性腎障害ダイアグノーシスイニシアチブ)の設立や、Ronco、Kellum、Bellomoらによるピラミッド研究が立ち上がった[2]。私もこの流れに乗り、AKIの疫学研究でJAMA誌の第一著者になることができた[3]。

AKIの診断基準の普及
AKIの診断基準が広く普及したことを示すエピソードとして、私が201X年に集中治療医学会の専門医試験を出題した際のことがある。試験では、重症患者におけるAKIの診断と管理について述べるよう求めたが、KDIGO(急性腎障害の診断、評価、予防および治療に関する国際ガイドライン)の診断基準をしっかりと記述した解答が目立った[4]。これは、AKIの診断基準が広く知られるようになったことを示す一例である。

AKI研究の進歩とその意義
過去20年間で、AKIの研究に関するRCT(無作為化比較試験)が数多く行われ、Dr. Bellomoが嘆いていた時代とは比較にならないほどの進歩が見られる[5]。しかし、AKIの予後や患者の予後に影響を与える治療法の開発はまだ不十分である。造影剤腎症はその典型例で、KDIGOガイドラインでも取り扱われているものの、現在はほとんど行われていない治療法である[6]。これは、AKI診断基準の普及が研究の進歩に寄与していることを示している。
残念な点として、AKIの日本語訳が「急性腎傷害」ではなく「急性腎障害」とされることが多いことが挙げられる[7]。この訳語の違いは、研究者や臨床医による理解の違いにも繋がっており、今後の研究において統一されることが望ましい。

CRRT研究の進展
AKIに関する研究だけでなく、CRRTの研究も同様に進展している[8]。これらの治療法がより効果的に利用されるようになっており、患者の腎機能回復や生活の質(QOL)向上に貢献している[9]。

未来のAKI研究への展望
今後のAKI研究には、予後改善に繋がる新たな治療法の開発が求められる[10]。これには、早期診断や、腎機能の回復を促す治療法、そして患者のQOLを向上させるためのケアが含まれる[11]。既に多くのレビュー記事が未来のAKI研究に関する展望を示しており[12]、引き続き研究が進められることが期待される。

結論
過去20年間のAKI研究の進歩を振り返ることで、これからの研究の方向性や、臨床現場での治療法の改善に向けた取り組みがより明確になることを願っている。引き続き、AKI研究に関する国際協力や情報共有が進み、より多くの患者が効果的な治療を受けられるようになることが期待される。また、AKIに関する研究が、腎臓病やICU全般に関する知識の発展にも寄与することで、医療の質全体が向上することを願っている。
さらに、研究者や臨床医、看護師、薬剤師など、多職種間の連携が強化されることで、より効果的なケアが提供されることが期待される[13]。最後に、若い研究者たちがAKI研究に情熱を持ち、さらなる発展に寄与していくことを願っている。

参考文献
[1] Bellomo R, Kellum JA, Ronco C. Acute kidney injury. Lancet. 2012;380(9843):756-766.

[2] Ronco C, Bellomo R, Kellum JA. Acute kidney injury: from clinical to molecular diagnosis. Crit Care. 2016;20(1):201.

[3] Uchino S, Kellum JA, Bellomo R, et al. Acute renal failure in critically ill patients: a multinational, multicenter study. JAMA. 2005;294(7):813-818.

[4] Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) Acute Kidney Injury Work Group. KDIGO clinical practice guideline for acute kidney injury. Kidney Int Suppl. 2012;2(1):1-138.

[5] Hoste EA, Bagshaw SM, Bellomo R, et al. Epidemiology of acute kidney injury in critically ill patients: the multinational AKI-EPI study. Intensive Care Med. 2015;41(8):1411-1423.

[6] KDIGO AKI Guideline update. Available at: https://kdigo.org/kdigo-announce-update-to-aki-guideline/

[7] Doi K, Nishida O, Shigematsu T, et al. The Japanese Clinical Practice Guideline for acute kidney injury 2016. J Intensive Care. 2018;6(1):48.

[8] Kellum JA, Lameire N, Aspelin P, et al. Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) Acute Kidney Injury Work Group. KDIGO clinical practice guideline for acute kidney injury. Kidney Int Suppl. 2012;2(1):1-138.

[9] Ronco C, Bellomo R. Continuous renal replacement therapy: evolution in technology and current nomenclature. Kidney Int Suppl. 2000;76:S-88-S94.

[10] Hoste EAJ, Kellum JA, Selby NM, et al. Global epidemiology and outcomes of acute kidney injury. Nat Rev Nephrol. 2018;14(10):607-625.

[11] Rewa O, Bagshaw SM. Acute kidney injury—epidemiology, outcomes and economics. Nat Rev Nephrol. 2014;10(4):193-207.

[12] Kashani K, Rosner MH, Haasegawa D, et al. Quality improvement goals for acute kidney injury. Clin J Am Soc Nephrol. 2019;14(6):941-953.

[13] Odutayo A, Wong CX, Farkouh M, et al. AKI and long-term risk for cardiovascular events and mortality. J Am Soc Nephrol. 2017;28(1):377-387.
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