日本には、失ってはならない大切なものが山ほどあるのだということを、
我が家の小さなイベントを通して、身に染みて感じました。
お招きしたお客様に撒物としてお渡した和菓子です。
とらやさんに作っていただきました。
「多胡の浦」と「緑の友」なるお菓子で、それぞれのデビューは90年以上前の大正中期。
二つで、わずか900円、これを30セットほどお願いしたのですが、
とてつもなく手のかかる受注生産品、合計で、たった27,000円の仕事なのに、
熨斗を選ぶために、わざわざ熨斗の現物を速達で送ってくる心配り。
賞味期間が一日ということで、当日の朝、赤坂の本店で手作りの上、
出来上がり次第、国立劇場まで配達していただきました。
演目に関連して、お弁当をお願いしたのが、
東近江の招福楼さん。
お招きするお客様の年齢層を考慮して、
招福楼の一般的なお弁当と、ほぼ同じ値段で、
お祝い用の、小ぶりなお弁当を特別に作っていただきました。
こちらも、招福楼の丸の内店で、当日、作っていただいた上、
丸の内から伊勢丹を経由して国立劇場まで届けていただきました。
こちらの撒物は、さらに小さな仕事。
わずか三百数十円ほどの、大津絵の“藤娘”が描かれた小便箋。
こちらも、無料で熨斗まで付けていただき、
大津の老舗から郵送されてきました。
つい数年前まで、バスケットボールに打ち込んでいた長女の姿を
思い出せなくなるほどの変貌ぶり。
坂東三太映師匠のご指導のおかげで、坂東のお名前も頂戴しました。
12月26日、国立劇場においての大舞台。
日本舞踊の伝統美を、自分の娘を通して感じる喜び、
感激も一入でありましたが、
それにもまして、老舗との取引を通して、
日本の歴史ある生産業の仕事に対する真摯な姿勢に心打たれました。
どのような品物でも、ネットで手に入る時代となり、
人と人との係わり合いも淡白、いやゼロになりなりました。
当然、顧客の都合を配慮した気配りなども無用となりした。
品物を右から左へ流すだけのブローカー業が儲かり、
生産業に還元されない、現代の流通システム。
いろいろと疑問に思う、不景気一色で過ぎた年の瀬なのでありました。