陸奥月旦抄

茶絽主が気の付いた事、世情変化への感想、自省などを述べます。
登場人物の敬称を省略させて頂きます。

奇妙な米国内の北「核保有容認」論

2007-04-10 20:34:00 | 米国関係
 揉めに揉めているBDA資金返還問題、米国・財務省は一部の反対を押し切り、国務省の意向に沿ってBDAにコルレス口座を開くことを一時的に認め、BDAから中国銀行へドル送金をするよう助言していたようだが、中国銀行は簡単にイエスと言わなかった。それは、六ヶ国協議が瓦解した時、米国政府は再び北朝鮮口座を持つ外国銀行に対して、米国銀行にコルレス口座の開設禁止を命令すると予想されるからだ。

 武大偉外務次官によれば、マカオ政府の法律も送金手続きの上で問題になると言う。彼は、4月13日までの(核施設停止+査察完了)は難しいとの見解だ。議長国がそんなことを言って、核施設停止のため期限延長などと変更すれば、2月の六ヶ国協議合意は茶番と見られ、協議自体が瓦解する。つまり、ライスーヒル路線の大破綻である。

 ところが、米国内で何としてでも北朝鮮との国交正常化を行なおうとの動きがある。六ヶ国協議は、北朝鮮の核施設及び核兵器を諦めさせるのが主目標だから、もし北朝鮮の核兵器を最初から認めようとするなら、小ブッシュ政権は完全に国際的信用を失うだろう。当然、核兵器不拡散条約(NPT)にも抵触することになる。

 朝鮮日報の伝えるところによると、

米朝国交正常化:米国内で北の「核保有」容認に賛否

 バンコ・デルタ・アジア(BDA)の北朝鮮口座2500万ドル(約29億円)の送金問題で6カ国協議が進展しない中、米国は北朝鮮の核兵器保有を容認して国交正常化できるとの主張が提起された。

 これまで米国政府関係者と非公式に接触してきたグループには以前からこのような見方があった。しかし最近米国外交政策会議(NCAFP)のシュワプ会長は、自由アジア放送(RFA)とのインタビューでこの内容を公にした。同氏は「いくつかの核兵器を持った北朝鮮を今受け入れるのが、今後2年3年と協議を重ねながら北朝鮮により多くの核兵器を持たせるよりはましだ」と発言した。これ以上核兵器を作らせないという条件で北朝鮮と直ちに外交関係を樹立したほうがよいという立場だ。

 韓国政府はこれに対して公式的には「とんでもない」と一蹴している。しかし内部には異なった見方もある。「(北朝鮮が実験した核は)米国が1945年に長崎に投下した核爆弾の20分の1にもならない」という発言が最近出ているのは尋常ではない。

 北朝鮮が核を保有したまま米国と修好関係を樹立しようとの動きは、既にいくつも確認されている。先月中旬に北朝鮮を訪問したジョージア大学のパク・ハンシク碩座教授(業績が認められ寄付金支援対象に指定された教授)は「北朝鮮は核保有国として米国との関係を正常化することを狙っている」と述べた。北朝鮮の金桂寛(キム・ゲグァン)外務次官も先月5日のヒル国務次官補との会談で「われわれを(核兵器を保有する)インドのように取り扱ってほしい」と要求した。

 ソウル大学のイ・グン教授は「米国が核兵器を完全に廃棄しない北朝鮮と国交を樹立することに原則として反対する。しかし北朝鮮が完全な改革・開放を実行し、核兵器廃棄の明確な時期と方法について合意すれば考える価値はあるだろう」と述べた。国策研究機関のある研究員は「米国としては第3国に核が移転さえしなければ容認する可能性がある。韓国にとって深刻な脅威となるので対策を準備すべきだ」と主張した。

李河遠(イ・ハウォン)記者
朝鮮日報/朝鮮日報JNS
http://www.chosunonline.com/article/20070406000016


 2002年1月、小ブッシュ大統領は年頭教書で「悪の枢軸」と発言し、イラク、イラン、北朝鮮を名指して、大いなる啖呵を切った。前年の911事件を契機に、アフガン侵攻をし、そこでは治安維持にNATOを引き込んだ。そして、先端技術兵器により約1ヶ月でフセイン政権を叩き潰したが、その後4年近く経過した現在もイラクの治安維持が出来ないままだ。小ブッシュ大統領は、再選後の2005年1月に外交方針を大幅に変更した。つまり、パウエル氏とコンディ・ライス氏の国務長官交替である。

 最近は、イランに挑発されても、米国はサージカル・ストライク(核施設や行政中心への短期集中攻撃)さえ、実行しなくなった。影に英国の反対があり、サウディアラビアが牽制しているのだろう。せいぜい2組の空母艦隊をペルシャ湾へ派遣して、恫喝するだけだ。一方では、六ヶ国協議で北朝鮮を追い詰めようとしても、巧に逃げ回られて成果が上がらず焦っている。

 16年前、大ブッシュ大統領は、賢明にも「湾岸戦争」の目的を守り、対イラク戦で赫々たる戦果と名声を上げたが、国内経済運営で失敗、任期4年で身を引いた。息子の小ブッシュ大統領は、確かに局地戦でイラク軍を粉砕し、サダム・フセイン大統領を処刑したにもかかわらず、戦略を誤りイラク治安は泥沼化している。過大なイラク戦費のためもあって、双子の赤字は溜まる一方であり、国内では住宅ローンの破綻が間近に迫っている。

 恐らく昨年11月上旬の中間選挙結果は、小ブッシュ大統領に相当な打撃を与えたのだろう。2期目の大統領就任に就任して以来、国民の厭戦気分に彼はようやく気付いたのだ。ネオコンを取り仕切るチェイニー副大統領の健康も思わしくないし、盟友ブレア首相も近々退陣する。

 只今、小ブッシュ大統領の外交は、全て現実主義者のコンディ・ライスに任せ切りだ。ライス長官は、まずイランへの国連経済制裁を確実にした。混乱するイラク問題については、周辺国との合議体制を作ることとし、仇敵イランにもシリアにもこれへ参加させた。その形を作った上で、一時的にイラク派遣米軍を増強して内戦状態に安定化をもたらす。小ブッシュとしては極めて不満だが、これで来年春までに米軍を撤退させる含みをとのライス戦略だ。但し、石油利権とイラクのインフラ再建のための利権は確保しておく。

 一方、北朝鮮情勢である。昨年秋になって、米国は北朝鮮のミサイル技術と核爆発技術が全く未熟であると判断した。あれは、1970年代の技術と殆ど変わらない。つまり、米国自体の安全が北朝鮮核兵器に脅かされることは現在のところ無いと言って良い。それなら、プルトニュウム問題に限定して形だけでも核兵器準備を止めさせ、米朝国交樹立をすれば、小ブッシュは1年半後に引退の花道を歩むことが出来る。恐らくそれがライスの読みと見る。

 もしそうであるなら、ライス長官の考え、それにシュワプ会長の指向は、わが国の拉致問題に対する基本方針と真っ向から対立する。米国の考え方は、日本の国益を損なうものとなるだろう。当面は、六ヶ国協議の離脱を考えながら、拉致された人々の帰還を強く求めるしか方法は無さそうだ。
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2 コメント

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こんにちは (キャッシング大将)
2007-04-10 20:56:02
はじめまして

突然のコメント失礼します。

私は「キャッシング情報局 」と言うサイトを運営しています。

そこでこちらの記事を紹介させて頂きましたので
ご連絡させて頂きました。

該当記事
http://blog.livedoor.jp/qwertyuyjp/archives/53740256.html
返信する
お礼 (茶路主)
2007-04-12 02:55:58
キャッシング大将様

 御紹介を有難うございます。今後とも宜しく。
返信する

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