MASTER PIECE

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空を飛ぶ夢を見る

2013年02月15日 00時31分14秒 | その他
少年の見る夢は決まっていつも空を飛ぶ夢だった。
それは飛行機に乗りたいとか気球や飛行船の乗り物ではなく、言葉どおり空を飛ぶこと・・・

夢の中で彼は家の庭に出ている、彼の身長よりも少しほど高い塀の上によじ登り
目の前に広がる田園を見つめる・・・秋風が心地よく頬を撫でながら彼は田園の先に沈みゆく大きくて眩しい光を放つ太陽を見つめながらいつもこう思っている
「あの光の中に飛びたい・・・」

彼は目を閉じてじっと太陽の暖かさを瞼の上で感じながら大きく深呼吸をする。
二度大きく息を吸ってはゆっくりと吐き出しながら思い切って塀の上から右足を投げ出す。
落ちるという感覚はない、恐怖心もない、あるのは一歩前に飛び出した時に自分がどこにでも行ける自由な存在であることが何よりも心地よかった・・・

まずは両手を動かしてみる、ゆっくり動かすことで体が徐々に水平になる
空中に浮かんでいるというよりも泳ぐような感覚に近い。高くは飛べないのは分かっている、せいぜい民家の屋根ぐらいの高さだと思う、そのことが少年には少し不満だった。

目の下にはいつも見る風景とは違う風景が広がっている・・・
「あっ、学校が見えるよ、信吾君と恵君がサッカーしている」
「隣のおばさんとエリちゃんが公園でブランコに乗っているね」
「こんにちは、僕が見える・・・僕はここにいるよ、見えないよね、多分・・・」
「あっ、僕の家の車だ、パパとママどこに向かっているのかな?山の上の病院の方?」

「そろそろ家に帰ろう・・・誰にも心配かけたくないし、次はもっと高く飛べないかな?」

病院の中でベッドに横たわる少年を母親が見つめていた
事故から3日目なのに目を覚まさないのは心配だわ・・・
先生が言っていたが命に別状はないようだ、後は静かに見守るしかないよ、お前。
交通事故は不幸だったが、命が有っただけでも喜ぶべきことだな・・・
気持ちを強く持っていこうじゃないか、それが私たちに出来ることだろう?
そうね・・・
あなた見てよこの子、笑っているようだわ、楽しい夢でも見ているようね。

あぁ、たぶんそうだね。