水の門

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歌集『カインの祈り』

澤本佳歩歌集『カインの祈り』
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一首鑑賞(30):稲垣道子「天国へ行くのに肩書きはいりません」

2016年06月05日 06時42分07秒 | 一首鑑賞
「天国へ行くのに肩書きはいりません」牧師の声は熱帯びてきぬ
稲垣道子『天の梯子』


 掲出歌は、稲垣の師に当たる人の葬儀においての牧師の説教を活写したものらしい。
 「肩書き」と聞いて思い起こすのは、詩編49編17~18節の「人に富が増し、その家に名誉が加わるときもあなたは恐れることはない。死ぬときは、何ひとつ携えて行くことができず名誉が彼の後を追って墓に下るわけでもない」という御言葉だ。
 私は大学三年生の夏に受洗して以降、専攻を変えて履修計画を大幅に組み直したこともあって、四年時の就職活動には慌ただしく雪崩れ込んでいったというのが、実感としてあった。元々が宵っ張りの朝寝坊タイプの私は、朝に聖書を読み黙想する生活にまだ不慣れで、人生の重大事を決める時期のしかも気忙しい時間帯に、こんな悠長なことをやっている場合なのだろうかと不安に襲われることもしばしばだった。けれどその都度「何よりもまず、神の国と神の義を求めなさい。そうすれば、これらのものはみな加えて与えられる」(マタイによる福音書6章33節)という聖句に立ち返り、神様を第一にしていれば神様が必要なものは備えてくださる、と気持ちを強くした。
 あれから二十年以上が過ぎたが、私にとって新卒時の会社は遠い過去のものとなり、病気も患って、生まれ育った地にあった家ももう人の手に渡った。しかし、これだけは言える。神様はいつも私と共に居てくださった。申命記31章6節の「あなたの神、主は、あなたと共に歩まれる。あなたを見放すことも、見捨てられることもない」という御言葉は誠に確かなものだった。
 ヨブが言うように、私達は裸で母の胎を出、裸でこの世を発つのだ(ヨブ記1章21節)。それを恐怖ではなく、穏やかな心持ちで受け容れられていることを本当に幸いに思う。
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