ホトケの顔も三度まで

ノンフィクション作家、探検家角幡唯介のブログ

マザーズ

2011年10月27日 13時29分38秒 | 書籍
マザーズ
金原ひとみ
新潮社


金原ひとみ『マザーズ』を読む。

私は結婚もしていない三十代半ばの独身男で、かねてから子供ができるということ、それによって世界観がどのように変わるのかということに強い関心があり、かつ子供もいない自分に少なからぬコンプレックスを抱くルサンチマン野郎である。

これほど母親になるという事実を赤裸々に表現した小説は初めてだ(といっても母親ものは角田光代の『八日目の蝉』ぐらいしか読んだことはないが)。子供を産み、育てることの正の側面と負の側面が、最も鋭角なかたちで表現されている。倒錯した心理描写を一気に読ませる文章力にも脱帽。著者の心情が素直に表現されたラストもよかった。すばらしい作品だった。

多くの女性が、私が行っているような冒険に共感しないことも、この小説を読んで分かった。女性は胎内に子供=究極の生を抱えるので、わざわざ本当の生を求めて外で危険を冒す必要などないである。よく考えてみたら当たり前のことだ。マーク・ローランズ『哲学者とオオカミ』や国分拓『ヤノマミ』など、自然=生、死=生みたいな要素を隣に置いて、生きることを論じるような本を金原ひとみが読んだら、当たり前じゃん、ということになるのだろう。

昔、サバイバル登山家の服部さんから、「かくはたくん、子供は山だよ」と言われて、この人、何言ってるんだろうと思ったことがあったが、そういうことだったのか。

読後の感想を一言でいうと、おれも子供を産みたい! ってそれは違うか……。

あとこんなに面白い小説なのに、アマゾンのレビューはそれほど高くない。アマゾンのレビューなんてまったく気にしなくていいことも分かって、それもよかった。
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