ホトケの顔も三度まで

ノンフィクション作家、探検家角幡唯介のブログ

『漂流』イベント案内

2016年07月16日 09時23分01秒 | お知らせ
四年ぶりの本格的ノンフィクションとなる『漂流』の発売がいよいよ近づいてきました。

沖縄・宮古の佐良浜という漁村出身のある漁師が1994年、グアムでマグロ漁操業中に船が沈没、ライフラフトで漂流し、37日後にフィリピンで奇跡的に救出されました。その後、彼は船に乗ることをやめましたが、しかし八年後に再びグアムに向かいます。なぜ彼は再び海に出たのか。その背景には彼の出身地である佐良浜の特殊な風土、歴史と、われわれ陸の人間には容易に理解しがたい海に生きる人間の倫理がありました。『漂流』は一人の人間が土地の風土、そして海という自然にどのように支配されるのかを追った、(自分で言うのもなんですが)原稿用紙800枚、432頁の前人未到、類書なしの圧巻超ド級大作ノンフィクションです。

通常、こういう作品は小説で表現するものですが、私は基本的に全員実名のノンフィクションで描きました。漁師というのは取材して書くのが本当に難しい対象です。なぜなら、彼らの言っていることって、何を言っているのかよくわからないからです。そのため漁師物のノンフィクションは乗船ルポ、水産産業モノをのぞくと、ほとんど存在しません。しかし私は彼らが何をいっているのかよくわからないことをふくめて、彼らの世界を書きました。単なる乗船ルポではなく、海の男の世界観に陸の人間が構造的にせまった作品としては初めてのものだと思います。面白いこと請け合いです。

再校ゲラ作業も終了し、昨日は新潮のPR誌「波」収録のため、芥川賞作家で朝日の書評委員で同じだった小野正嗣さんと対談。小野さんは大分の漁村出身で故郷を舞台にした小説を発表しているので、漁村文化、漁師気質について濃密な話を展開できました。

さて、この本の出版を記念して、新潮社のイベントスペースで公開トークが開かれます。お相手は、私と同じ開高賞出身作家で、かつ毎日新聞記者(昔は私も記者をしていました)、しかも北大山岳部出身で私がよく一緒に山登りする群馬の清野さんの後輩でもある藤原章生さんです。これまで藤原さんとお会いしたことはないですが、これだけ共通項があれば否応なく盛りあがるでしょう。

開催は9月でちょっと早いですが、以下告知です。チケット2000円だそうです。ちょっと高いですが、ふるってご参加を。
チケット販売はこちら http://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/015hfpyatsqt.html#detail

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角幡唯介「はじめての海洋ノンフィクションを、僕はこう書きました」

『漂流』刊行記念トーク(聞き手:藤原章生)

2016/9/9(金) 19:00~2016/9/9(金) 20:30
イベント受付開始時間 2016/9/9(金) 18:30~

la kagu(ラカグ)2F レクチャースペースsoko
東京都新宿区矢来町67

チケット2000円


『空白の五マイル チベット、世界最大のツァンポー峡谷に挑む』で、開高健ノンフィクション賞、大宅壮一ノンフィクション賞、梅棹忠夫・山と探検文学賞の3冠を取り、一躍注目の書き手となった探検家の角幡唯介さん。その後も、『雪男は向こうからやってきた』(新田次郎文学賞)、『アグルーカの行方』(講談社ノンフィクション賞)と、自ら体験し取材するスタイルで、独自のノンフィクションを世に送り出してきました。

 最新作『漂流』で、角幡さんは新境地に挑みます。舞台は沖縄を中心とした南太平洋の漁場、しかも、今回は自身の体験ではなく、沖縄の漁師の人生を追った作品です。海、暖かい地域(南方)、他者の人生ーーー今までにない形の作品といえます。あらすじはこうです。


1994年冬、沖縄県伊良部島・佐良浜のマグロ漁師・本村実さんは、フィリピン人らと共に救命筏で37日間の漂流の後、「奇跡の生還」を遂げます。しかし8年後、本村さんは再び出航し二度と戻ることはありませんでした。九死に一生を得たにもかかわらず、彼を再び海に向かわせたものは何だったのか.....?

 沖縄、グアム、パラオ、フィリピンなどで家族や関係者の話を聞き、漁師の生き様を追った渾身の長編ノンフィクション『漂流』。この刊行を記念して、トークイベントを開催します。

 聞き手は毎日新聞編集委員の藤原章生さんです。

 ところで、藤原さんと角幡さんには、いくつかの共通項があります。新聞記者である(だった)こと、開高健賞受賞者であること、山好きなこと、山で命を落としかけた経験があること.....。ご自身もノンフィクション作家としていくつもの作品を上梓している藤原さんが、インタビュアーとして角幡さんの創作の舞台裏に迫ります。

・当日会場で書籍『漂流』をお買い求めくださった方を対象に、終演後、角幡唯介さんのサイン会を行います。また、藤原章生さんの著作も会場で販売いたします。




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プロフィール




角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)

探検家・ノンフィクション作家。1976年、北海道芦別市生まれ。早稲田大学政経学部卒、同大学探検部OB。2003年、朝日新聞社入社、08年退社。著書に『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(開高健ノンフィクション賞、大宅壮一ノンフィクション賞など)、『雪男は向こうからやって来た』(新田次郎文学賞)、『アグルーカの行方』(講談社ノンフィクション賞)、『探検家、36歳の憂鬱』、『探検家の日々本本』(毎日出版文化賞)など。近著に『旅人の表現術』。




藤原章生(ふじわら・あきお)

毎日新聞編集委員・ノンフィクション作家。1961年福島県常磐市(現いわき市)生まれ。北海道大学工学部卒業、住友金属鉱山に入社。1989年毎日新聞記者に転じる。ヨハネスブルク、メキシコ市、ローマ特派員、郡山支局長などを経て現職。著書に『絵はがきにされた少年』(開高健ノンフィクション賞)、『資本主義の「終わりの始まり」』、『世界はフラットにもの悲しくて』『湯川博士、原爆投下を知っていたのですか―“最後の弟子”森一久の被爆と原子力人生―』など。



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•ご購入いただいたチケットの、取替・変更・キャンセルはできません。ご了承ください。
•開場は開演の30分前です。

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