ホトケの顔も三度まで

ノンフィクション作家、探検家角幡唯介のブログ

デポ設置旅行から帰村

2015年05月10日 13時46分56秒 | 探検・冒険
一回目のデポ設置旅行を無事終了し、七日に村に戻った。橇が壊れて一時はどうなることかと思ったが、予定していたよりも多くの物資を、より遠くへ運ぶことができて満足である。

今回は村から115キロほど先にあるアウンナトックの小屋に一カ月分の食糧、燃料を運ぶ予定だった。しかし、途中の氷床上で狩りから戻る大島さんとばったり出会い、アウンナトックより東にあるイヌアフィシュアクの昔の小屋がまだ使えそうだったとの情報を教えてもらい、予定を変更してイヌアフィシュアクまで行ってきた。イヌアフィシュアクは去年の旅でも立ち寄ったが、そのときは小屋の位置が分からず、立ち去ってきたのだ。アウナトックよりも55キロほど奥地にあるので、ここにデポすれば次のカヤックでのデポ設置旅行がかなり楽になる。

それにしても、これまで冬にばかり行動していたので白夜の旅の快適さには驚くばかりだった。沈まぬ太陽にテントは照らされ、なかはぽかぽか。一応、外はまだ氷点下20度ぐらいあるのだが、昼間などテントのなかは暑いぐらいで(今回は白夜で24時間明るいので夜に行動して昼に寝ていた。夜に行動したほうが雪が締まっており、涼しいので行動が楽なため)、シュラフに入らずに寝ることも多かったぐらいだ。

よく荻田くんが、北極の旅の比べると南極の旅は夏の白夜に行動できるので楽勝と言っていたが、それもよくわかった。極地を楽しむなら白夜に限る。

ウヤミリックの橇引き能力も去年に比べると格段に向上しており、感覚的には80キロ分ぐらいは引いていたのではないかと思う。イヌアフィシュアクからの帰りは完全に犬に橇引きをまかせて、私は完全空身、橇と自分をロープでつなぐことさえせずに帰ってきた。このぶんだと残り二十日ぐらいになったら犬が橇を引いてくれるかもしれない。そうすると一日30キロは楽勝なので、単純に二十日で六百キロ進める計算になり、夢のようだ。まあ、極夜の旅はそんな簡単に行くものではないが、犬の逞しさは嬉しい誤算だった。

というわけで、予定より遠くのイヌアフィシュアクまで行ったうえに、予定より一週間近く早く帰ってくることができた。休息日なしの20日間連続行動だったが、疲れもないし、毎日非常に快適で、のんびりと白夜の北極を楽しむことができた。ウサギもいっぱいいたし。

文春文庫から『探検家の憂鬱』が発売されました(単行本『探検家、36歳の憂鬱』を改題し、エッセイ一本、あとがき一本にブログの記事を追加したものです)。インパクト抜群のカバー。荻田君と行ったアグルーカの旅のときにヘルペスが悪化して唇が化膿しまくったときの写真です。このときは本当に憂鬱だった。そんな探検家ならではの憂鬱をつづったエッセイ集です。

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ボンボンとあわせて読むと面白さ倍増です。

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