出生外傷 | |
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みすず書房 |
オットー・ランク『出生外傷』を読む。極夜探検の原稿を執筆する前段階の参考文献として読んだ。
内容を簡単に説明すると、人間は胎児期に子宮内にいるときに究極の心地よさを感じている。これが原状況であり、出生時に原状況が壊され、母とひき離されて、無理やり外界に引きずりだされるとき、究極の不安を感じる。これが人間の原不安である。原不安こそ人間の不安の根源であり、人間が物事を知覚する最初の体験だ。人間は誰しも母胎内の原状況に回帰したいと望むが、この回帰の希求は出生時の外傷と結びついているのでどうしても原不安が生じ、原不安を抑圧しようとする原抑圧がはたらく。オットー・ランクに言わせれば、すべての文化、芸術は出生外傷と関係しており、フロイトのエディプスコンプレックスも、出生外傷の原不安を出生後の障害である父に転換したものだ。人間が人間になるということは原抑圧を乗り越える過程なのだという。
オットー・ランクはフロイトの忠実な弟子というか、事実上の息子みたいに親密な関係にあったが、この本を発表したことでフロイトとも疎遠になり、精神分析のほかの学者からも批判された。その意味では結構あぶない本なのかもしれない。私は精神分析や心理学についてはまったく無知なので、この学説が専門的にどこまで妥当なのかは判断できないが、個人的にはかなり啓発され、非常に面白く読めた。読んでいる最中は、娘の挙動をなんでもかんでも出生外傷に結び付けて話すので、妻からうざがられたぐらいだ。
ところで、なぜこれが極夜探検と関係があるのか。ということは、う~ん、ブログでは書かない方がいいような気がしてきた。極夜探検は来年あたり本にしたいので、ある意味、ネタばれになってしまうかもしれない。もちろん、本書の中身が探検の内容と直接リンクしているわけではないが、探検の最後に直観したことと深いところで結びついている気がした。まあ、出生と極夜といえば勘のいい人ならわかるだろうか。
なお、オットー・ランクには『英雄誕生の神話』という別の有名な本もある。早速、ネットで購入してしまった。