ホトケの顔も三度まで

ノンフィクション作家、探検家角幡唯介のブログ

錫杖岳1ルンゼ

2015年02月03日 01時29分12秒 | クライミング


忙しい、忙しいとぼやいているわりには、この週末は若手クライマーのオオブ君と錫杖岳1ルンゼへ。日本で一番かっこいいとの呼び声も高いアルパインルートである。

事前の候補は三つあって、南アのヤニクボルンゼと唐沢岳幕岩S字状ルンゼと錫杖で迷ったが、たまたま山行の数日前に高田馬場のカモシカスポーツに行ったときに、錫杖に行ってきたばかりだという店員さんから「1ルンゼ、ばっちり凍ってましたよ」との報告を受けたので、そんなこんなで錫杖にした。

天気は雪で寒かった。積雪も多く、クリヤ谷出合まではラッセルで二時間半ほどかかる。最近では錫杖というとアルパインクライマーのゲレンデ的な雰囲気もある山なので、天候にかかわらず他パーティーもいるだろうと予想していたが、誰もおらず貸切状態である。土曜はキャンプから取り付きまでラッセルし、ロープを1ピッチ30メートルほどフィックスして終了した。

氷結状態はどうだったのだろう、ちょっと微妙な気がした。もう少し時期が遅いほうが状態はよくなると思う。1ピッチ目は溝にスカ氷の張りついただけのミックスで、傾斜はきつく支点もあまり取れない。ただ、アックスが決まる程度の固さはあって、リードしたオオブ君はランナウトしてまま登っていった。2ピッチ目は10mほど滝を登って、そのあとは緩傾斜帯に入る。このルートで唯一気が抜けるピッチで、次の滝に入ったところでピッチを区切る。3ピッチ目から中間部の傾斜のきつい氷柱に入る。下部はスカ氷が続き、リードのオオブ君は傾斜がきつくなって、核心のバーティカル部分に入ったところでピッチを切った。

4ピッチ目が核心でまずは垂直のブルーアイスを、右の岩とのコンタクトラインから10mほど登る。落ち口で左にトラバースしてのっこすところがいやらしいが、氷はしっかりしているのでさほど難しくない。問題はその後で、少し傾斜が緩んだところを越えると、再び80度ほどの立った氷柱となり、ここがまた中身がスカスカの困った氷で、しっかりとした支点が取れず、つらい。久しぶりのまともなクライミングで腕がパンプして、落ち口で一瞬、ヤバイ、落ちると覚悟を決めそうになった。けっこうギリギリだったが、なんとか色々ごまかして越えた。氷壁登りもまた人生である(近年は日常で覚悟を決める機会は何度かあったが、山では久しくそういうことはなかったのです)。


核心の中間部氷柱。この上がいやらしいスカ氷の壁になる。

5ピッチ目は氷柱の最後の10mを越えて、事実上の登攀は終了。そこからさらに60mいっぱいまでロープを伸ばし、そこから同ルート下降でおりた。

天気が悪く、気温も低くて(下山後の松本付近の気温はマイナス9度だった)、手袋が凍りつき、なかなかハードなクライミングだった。結氷がもう少しよくなったら快適だと思うが、いずれにせよ非常に登りごたえのあるいいルートであることは間違いない。実質4ピッチか5ピッチだが、これだけ傾斜の強い氷が最後までつづき、しかも適度にテクニカルというルートは他にあまりないように思う。

じつは12月は八ヶ岳の大同心北西稜に向かったが、アプローチの裏同心ルンゼが渋滞しており、北西稜に取りついたところで敗退。正月も甲斐駒の摩利支天に行ったが、これもいろいろあって敗退と、今シーズンはまともに登れていなかったので、今回はいいストレス解消になった。

教訓としては、そろそろ新しいアイゼンに買い換えたほうがいいように思ったので、今度、山道具屋に行ったときに北極の装備のなかにこっそりアイゼンを忍び込ませて、妻に内緒で購入しようと思いました。これからもいろいろごまかして人生を乗り切ろうと思いました。

次は以前から気になっていた、登山体系で絶賛されているあの山に行こうと思います。

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