探検部後輩Sから「瑞垣にクライミングに行きませんか」と誘われたので、金曜夜に中央本線穴山駅に向かった。
とはいえ現在、私は完全に北極モード。幅5センチほどの岩の割れ目に手を突っ込んで、ずりずり体をずりあげるクラッククライミングの技術は、北極ではなんの役にも立たないのでモチベーションがわかない。そこへ、合流したSが、都合のいいことにヘルメットを忘れたというので、強引に標高差2200メートルの甲斐駒ケ岳黒戸尾根ボッカ訓練に計画を変更してしまった。ビニール袋に水を詰め込み、ザックを重くして、土曜日に頂上まで登って来た。
山頂でボッカした水を放水する。大きくなれよ。
ところで登山中、最近はやりの若いトレイルランナーとたくさんすれ違った。いつでもスポーツドリンクを飲めるよう、ホースの伸びた小さなザックを背負い、流行りのカラフルな短パン、Tシャツに身を包んだ、雑誌から飛び出してきたようなさわやかな若者である。犬の散歩をしている日曜朝八時の若奥様のような笑顔で、こんにちはと挨拶をするような連中だ。
登り始めてから数時間、重い荷物を背負って汗をダラダラ流しながら最初のトレイルランナー風男の子とすれ違った時、私とSは奇妙な感覚に襲われた。
いいにおいがしたのである。
「おい、なんか今のやつ、いいにおいがしなかったか?」
「そうっすね」
Sにも確かめたが、Sもまた、いいにおいを嗅ぎ取ったと証言した。その後、私たちはいいにおいのする若者たちとたくさんすれ違った。いったいこの国では何が起きているのだろう。日本の文化の根っこのあたりで、さも今大変な地殻変動が起きているかのごとく、私とSは下山中、いいにおいを発散しながら山を登る男の子たちについて論じ合った。今までずいぶんたくさん山に登ってきたが、いいにおいのする男とすれ違ったのは、今回が初めてだ。
これが、男子、というやつなのだろうか。香水だか芳香剤だか防臭剤だかデオドラントだか知らないが、はっきり言って気持ちが悪い。沢に現れたら、いよいよ本物だろう。
とはいえ現在、私は完全に北極モード。幅5センチほどの岩の割れ目に手を突っ込んで、ずりずり体をずりあげるクラッククライミングの技術は、北極ではなんの役にも立たないのでモチベーションがわかない。そこへ、合流したSが、都合のいいことにヘルメットを忘れたというので、強引に標高差2200メートルの甲斐駒ケ岳黒戸尾根ボッカ訓練に計画を変更してしまった。ビニール袋に水を詰め込み、ザックを重くして、土曜日に頂上まで登って来た。
山頂でボッカした水を放水する。大きくなれよ。
ところで登山中、最近はやりの若いトレイルランナーとたくさんすれ違った。いつでもスポーツドリンクを飲めるよう、ホースの伸びた小さなザックを背負い、流行りのカラフルな短パン、Tシャツに身を包んだ、雑誌から飛び出してきたようなさわやかな若者である。犬の散歩をしている日曜朝八時の若奥様のような笑顔で、こんにちはと挨拶をするような連中だ。
登り始めてから数時間、重い荷物を背負って汗をダラダラ流しながら最初のトレイルランナー風男の子とすれ違った時、私とSは奇妙な感覚に襲われた。
いいにおいがしたのである。
「おい、なんか今のやつ、いいにおいがしなかったか?」
「そうっすね」
Sにも確かめたが、Sもまた、いいにおいを嗅ぎ取ったと証言した。その後、私たちはいいにおいのする若者たちとたくさんすれ違った。いったいこの国では何が起きているのだろう。日本の文化の根っこのあたりで、さも今大変な地殻変動が起きているかのごとく、私とSは下山中、いいにおいを発散しながら山を登る男の子たちについて論じ合った。今までずいぶんたくさん山に登ってきたが、いいにおいのする男とすれ違ったのは、今回が初めてだ。
これが、男子、というやつなのだろうか。香水だか芳香剤だか防臭剤だかデオドラントだか知らないが、はっきり言って気持ちが悪い。沢に現れたら、いよいよ本物だろう。