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感想:『耳刈ネルリ御入学万歳万歳万々歳』

2009年12月16日 21時14分19秒 | 本と雑誌
耳刈ネルリ御入学万歳万歳万々歳 (ファミ通文庫)耳刈ネルリ御入学万歳万歳万々歳 (ファミ通文庫)
価格:¥ 651(税込)
発売日:2009-01-30


石川博品のデビュー作。異世界を舞台としたファンタジーではあるが、ラノベらしいパロディが随所に散りばめられている。世界観は全く異なるが、『生徒会の一存』シリーズに雰囲気が近いかもしれない。

世界観はユニーク。本地民と王国民という異なる価値観をうまく対峙させている。善悪のような対比ではなく、それぞれの美点と欠点がちゃんと描かれている。特に本地民による委員活動は左翼的ではあるが、そうしたイデオロギーというよりも、構造自体を皮相的に捉えている。もちろん、皮相的ではあるが、口だけではなく行動を伴うべきといったその優れた点も描いてバランスを取っている。

キャラクターも類型ではなくかなり個性的だ。その分、”萌え”のツボを押さえられてはいない印象だが、凡百のライトノベルの中でも独特の存在と位置付けられるほどだと思う。ただし、文章が拙かったり、構成が弱かったりするせいで、魅力を十分に引き出せているとは言い難い。
そんな個性的な面々の中で主人公は比較的ニュートラルな位置付けなのだが、妄想成分が非常に多い。もちろん性的な意味で。好みの問題ではあるが、思春期の男の子が主人公である以上、無関心すぎる主人公像には違和感が強いだけに、むしろこうした主人公の方が共感はしやすい。ただし、ここでも文章力などの問題がある。

設定やキャラクターのユニークさを引き出し切ってはいない。特に物語や展開、演出など随所に綻びが目立つのが非常に残念だ。面白くなる可能性を秘めてはいるが、本書の時点では「変」な作品で終わってしまっている。「変」であることは大きな武器ではあるが、それを面白さに結び付けなければ成功とは言えない。今後どんな方向に進んでいくか続編を読みたいシリーズであることには間違いないが。(☆☆☆)