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感想:『ガンパレード・マーチ 5121小隊 九州撤退戦 上下』

2009年12月22日 23時40分49秒 | ガンパレード・マーチ
ガンパレード・マーチ 5121小隊 九州撤退戦〈上〉 (電撃文庫)
価格:¥ 599(税込)
発売日:2004-08
ガンパレード・マーチ 5121小隊 九州撤退戦〈下〉 (電撃文庫)ガンパレード・マーチ 5121小隊 九州撤退戦〈下〉 (電撃文庫)
価格:¥ 620(税込)
発売日:2004-10


フィクションにおいて負け戦は、たいていその後の勝利への道程のために描かれる。本書は小説版(榊版)ガンパレの完結編として書かれた作品である。その後、シリーズは続くことになったが、少なくとも書かれた時は本シリーズの結末は負け戦だったわけである。

熊本城攻防戦に勝利し、自然休戦期を前に休戦ムードが漂い気が緩んでいた学兵たちを震撼させた幻獣共生派によるテロとその後の幻獣の大侵攻。軍首脳は自衛軍や精鋭部隊を九州から撤退させる決断を下した。多くの学兵たちはただ抗戦の指示だけ受けて捨石とされた。

5121小隊は善行と原が軍部の謎の集団に一足先に九州から連れ出され、残るメンバーも撤退の指示を受ける。だが、友軍の危機を前に、その救出を目指そうとする隊長代理の芝村舞と戦争からの解放を願う整備兵たちとの対立を生む。脱出した善行と原の復帰に伴い、それはなんとか乗り越えられたが、下巻における機動防衛の連戦に次ぐ連戦は読み手に戦争の苛酷さを嫌というほど味あわせてくれた。
本書では、5121小隊メンバーだけでなく、他の学兵たちからの視点も多い。一種のエリート部隊化した5121小隊の視点ではなく、一介の学兵たちの死と隣り合わせの日常が織り交ぜられ、より戦争の身近さが強調されている。
もちろん、榊版の制約たる小隊メンバーが死なない点については本書では弱点になっているのは事実だ。数多い戦死者たちは名前の出ていない存在であり、原作ゲームのようなあっけないほど簡単に起こる仲間の死は描かれていない。それでも、甘いと言えないほどの戦争描写は圧巻とも言えるだろう。

士魂号の名はアジア太平洋戦争に於ける占守島の戦いの戦車部隊に由来する。このゲームの開発者の一人がその部隊の生存者の孫ということはファンの一部では知られた事実だ。士魂部隊は終戦直後にソ連軍相手に戦い勝利したがその後シベリアに抑留されることとなった。負け戦の中の守りの戦い。しかし、ソ連軍の北海道上陸を阻む戦いでもあった。

だから。

だからなのか、ガンパレにはこうした撤退戦が似合う。電撃プレイステーションとのコラボで実現したスペシャルセーブデータでも、「スカウト・ポルカ」というスカウト二人での撤退戦が収録されていた。もちろん、ゲーム本編にも熊本撤退イベントは存在する。

フィクションは勝利を描きがちだ。それが悪いわけではない。だが、敗北の中でどう戦うのか。そこにこそ描ける真実もある。原作のゲームのみならず、この小説版でもその精神はしっかりと根付いているように思える。小説版は勝利へと更なる展開を見せることとなったわけだが、一つの完結としてこの負け戦こそがガンパレらしさでもあるという思いは忘れずにいたい。