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理念とビジョン: 「全文」 「ダイジェスト版」
第6章の目次
エネルギーの有効利用
ここで、わが国の「省エネルギー」を考えてみましょう。わが国で省エネルギーというときには個々の部門、たとえば、鉄鋼業では原単位当たり、これだけの消費量が少なくできたとか、あるいは家電製品でいえば10年前の冷蔵庫よりも現在の冷蔵庫は消費電力が3分の1ですむようになったとか、どちらかというと、「ある特定の産業部門や製品個々の技術による省エネルギー」が中心になっているように思います。
環境への負荷を考えるときには、このような「個々の省エネルギー化」、言い換えれば「技術による省エネルギー化」というのは生産規模が拡大したり、製品の使用量が増えればせっかくの省エネルギーのための努力がエネルギーの消費量に吸収されてしまい、結果的にはわが国全体のエネルギー消費は増大し、環境への負荷は高まってしまうのです。
同じようなことがすでにわが国の窒素酸化物低減対策の中でいわれています。わが国の自動車1台当たりの窒素酸化物の排出量削減技術は世界最高水準を達したとはいうものの、わが国の保有台数が同時に増えてしまったので、窒素酸化物の年間総排出量は逆に増えてしまったというわけです。このように環境問題を視野に入れた時に重要な省エネルギーとは単に「技術による省エネルギー」という狭義の省エネルギーではなくて、「国全体のエネルギー消費量を削減する省エネルギー」なのです。
省エネルギーの考え方
わが国のエネルギー関係者、産業界の技術者、経済評論家の中には、しばしば「わが国の省エネは世界の最高水準にある」という方々がおります。その根拠はなんなのかよくわかりませんが、多分、前述したような考え方によるものでしょう。私は常々このような考え方に疑問を持っています。
エネルギーの使用量の増加は環境への負荷を高めるものですから、環境問題を視点においた場合には、最終エネルギー消費の増大が問題となります。ですから、「国全体の最終エネルギー消費の伸びをどの程度抑えたか」を省エネルギーの目安とすべきだろうと思います。
このような観点に立って、わが国とスウェーデンの最終エネルギーの消費量の推移を比べて見たのが表15です。わが国の推移は通産省の『総合エネルギー統計』(平成二年度版)に基づく数値ですし、スウェーデンの推移は1991年2月に国会に上程された政府の「エネルギー政策案」から拾い出したものです。
この表からはっきりわかることはわが国の最終エネルギー消費は確実に増加しており、環境への負荷を高めていることです。また、この表には示しませんでしたが、一次エネルギーの総供給量を調べて見ますと、1970年(3197兆キロカロリー)、1980年(3972兆キロカロリー)、1989年(4619兆キロカロリー)とこれまた確実に増大しています。
さらに、1990年6月に公表された通産大臣の諮問機関である総合エネルギー調査会の「長期エネルギー需給の見通し」によれば、1988年のエネルギー実績(4.82億キロリットル:単位が異なっていることに注意して下さい)に対して、2010年の見通しは6.66億キロリットルと大変な増大になっているのがよくわかります。
当然のことながら、エネルギー供給量の増加に伴って、エネルギー消費量は増加するわけですから、2010年のエネルギー消費量は「長期エネルギーの見通し」どおりと仮定すれば1988年に比べてさらに増大することになります。つまり、1970年から2010年までの40年間、わが国のエネルギー供給量およびエネルギー消費量は、確実にしかも大規模で、増大することになります。
このことはわが国のエネルギー使用による環境への負荷は1970年に比べて2010年にはその絶対量が大きいだけに、スウェーデンの比ではありません。ここで、一つ注意しておきたいことは、エネルギーの消費量を経年的に比較する時にどの年を基準年とするかということです。
私は1970年を基準年としましたが、たまたま第一次オイル・ショックの1973年を基準年にとりますと、その年の最終エネルギー消費は2652兆キロカロリーで、産業部門のエネルギー消費は1656兆キロカロリーですから、産業部門のエネルギー消費は1973年に比べて1980年、1989年には数字の上では減少していることになります(表15・16)。
一方、スウェーデンはどうかといいますと、最終エネルギーの消費量は1970年から1989年のおよそ20年間増加しておりませんし、前述の「2015年の環境に適合するエネルギー体系のシナリオ」で明らかなように、最終エネルギー消費量が減少しているシナリオ(環境シナリオ)さえあります。
つまり、スウェーデンでは、わが国とは違って、環境シナリオをとれば1970年から2015年までの45年間、経済成長を見込んでも最終エネルギーの消費量は増加しないということになります。
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エネルギーの有効利用
ここで、わが国の「省エネルギー」を考えてみましょう。わが国で省エネルギーというときには個々の部門、たとえば、鉄鋼業では原単位当たり、これだけの消費量が少なくできたとか、あるいは家電製品でいえば10年前の冷蔵庫よりも現在の冷蔵庫は消費電力が3分の1ですむようになったとか、どちらかというと、「ある特定の産業部門や製品個々の技術による省エネルギー」が中心になっているように思います。
環境への負荷を考えるときには、このような「個々の省エネルギー化」、言い換えれば「技術による省エネルギー化」というのは生産規模が拡大したり、製品の使用量が増えればせっかくの省エネルギーのための努力がエネルギーの消費量に吸収されてしまい、結果的にはわが国全体のエネルギー消費は増大し、環境への負荷は高まってしまうのです。
同じようなことがすでにわが国の窒素酸化物低減対策の中でいわれています。わが国の自動車1台当たりの窒素酸化物の排出量削減技術は世界最高水準を達したとはいうものの、わが国の保有台数が同時に増えてしまったので、窒素酸化物の年間総排出量は逆に増えてしまったというわけです。このように環境問題を視野に入れた時に重要な省エネルギーとは単に「技術による省エネルギー」という狭義の省エネルギーではなくて、「国全体のエネルギー消費量を削減する省エネルギー」なのです。
省エネルギーの考え方
わが国のエネルギー関係者、産業界の技術者、経済評論家の中には、しばしば「わが国の省エネは世界の最高水準にある」という方々がおります。その根拠はなんなのかよくわかりませんが、多分、前述したような考え方によるものでしょう。私は常々このような考え方に疑問を持っています。
エネルギーの使用量の増加は環境への負荷を高めるものですから、環境問題を視点においた場合には、最終エネルギー消費の増大が問題となります。ですから、「国全体の最終エネルギー消費の伸びをどの程度抑えたか」を省エネルギーの目安とすべきだろうと思います。
このような観点に立って、わが国とスウェーデンの最終エネルギーの消費量の推移を比べて見たのが表15です。わが国の推移は通産省の『総合エネルギー統計』(平成二年度版)に基づく数値ですし、スウェーデンの推移は1991年2月に国会に上程された政府の「エネルギー政策案」から拾い出したものです。
この表からはっきりわかることはわが国の最終エネルギー消費は確実に増加しており、環境への負荷を高めていることです。また、この表には示しませんでしたが、一次エネルギーの総供給量を調べて見ますと、1970年(3197兆キロカロリー)、1980年(3972兆キロカロリー)、1989年(4619兆キロカロリー)とこれまた確実に増大しています。
さらに、1990年6月に公表された通産大臣の諮問機関である総合エネルギー調査会の「長期エネルギー需給の見通し」によれば、1988年のエネルギー実績(4.82億キロリットル:単位が異なっていることに注意して下さい)に対して、2010年の見通しは6.66億キロリットルと大変な増大になっているのがよくわかります。
当然のことながら、エネルギー供給量の増加に伴って、エネルギー消費量は増加するわけですから、2010年のエネルギー消費量は「長期エネルギーの見通し」どおりと仮定すれば1988年に比べてさらに増大することになります。つまり、1970年から2010年までの40年間、わが国のエネルギー供給量およびエネルギー消費量は、確実にしかも大規模で、増大することになります。
このことはわが国のエネルギー使用による環境への負荷は1970年に比べて2010年にはその絶対量が大きいだけに、スウェーデンの比ではありません。ここで、一つ注意しておきたいことは、エネルギーの消費量を経年的に比較する時にどの年を基準年とするかということです。
私は1970年を基準年としましたが、たまたま第一次オイル・ショックの1973年を基準年にとりますと、その年の最終エネルギー消費は2652兆キロカロリーで、産業部門のエネルギー消費は1656兆キロカロリーですから、産業部門のエネルギー消費は1973年に比べて1980年、1989年には数字の上では減少していることになります(表15・16)。
一方、スウェーデンはどうかといいますと、最終エネルギーの消費量は1970年から1989年のおよそ20年間増加しておりませんし、前述の「2015年の環境に適合するエネルギー体系のシナリオ」で明らかなように、最終エネルギー消費量が減少しているシナリオ(環境シナリオ)さえあります。
つまり、スウェーデンでは、わが国とは違って、環境シナリオをとれば1970年から2015年までの45年間、経済成長を見込んでも最終エネルギーの消費量は増加しないということになります。
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