環境問題スペシャリスト 小澤徳太郎のブログ

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東日本大震災:取り残された2万人(朝日新聞 朝刊)、うちの水は(朝日新聞 夕刊)

2011-03-24 21:37:34 | 自然災害
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                              第6章の目次


スウェーデンのエネルギー政策に対するわが国の関心

 スウェーデンのエネルギー政策に対するわが国の関心あるいは一般の理解は脱原発に集中しているといっても過言ではないでしょう。この傾向はわが国だけでなく、欧米のジャーナリズムも大同小異です。ですから、わが国のジャーナリズムや欧米のジャーナリズムの提供する断片的な情報ばかり見ていますと、スウェーデンのエネルギー政策は、即、脱原発政策となってしまうのです。スウェーデンのエネルギー政策を真面目に分析しようとするならば、国内や欧米のジャーナリズムが伝える断片的な情報だけでなく、スウェーデンから入手した資料をもとにスウェーデン社会の背景を考慮に入れてスウェーデンのエネルギー政策に関する議論を展開する必要があります。

 スウェーデンのエネルギー政策は単に「脱原発政策」ではありません。このことは後述する1988年の「エネルギー政策ガイドライン」、1990年の「2015年の環境に適合するエネルギー体系のシナリオ」、1991年の「エネルギー政策」を見れば明らかです。仮に、スウェーデンのエネルギー政策が『脱原発政策』であるなら、現在、数%に過ぎない火力発電をわが国並みに(わが国の火力発電の総発電電力量に占める割合はおよそ60%です)高めればよいはずです。この場合に、スウェーデンが必要とする石炭や天然ガスなどの化石燃料をスウェーデンに輸出したい国はかなりあるでしょうし、必要な公害防止技術を輸出したい国もあるはずです。つまり、スウェーデンのエネルギー政策が「脱原発政策」であって、「とにかく原発を廃棄したい」というだけのことであれば、その代替策としては世界のほとんどの工業先進国が利用しているにもかかわらず、スウェーデンでは利用されていない火力発電の建設を進めればよいのです。

    ①なぜ、スウェーデンはわが国や他の工業先進国がこれまで進めて来たエネルギー供給システムやこれから進めて行こうとするエネルギー供
      給システムにあまり積極的でないのでしょうか? 
    ②その理由はスウェーデンが他の工業先進国に比べて、科学技術力が劣るからなのでしょうか?
    ③それとも、スウェーデンは他国から石炭などのエネルギー源や、“わが国が世界に誇る”高価な公害防止機器を輸入できるだけの経済力がな
      い経済小国だからなのでしょうか?
    ④あるいは、逆に、スウェーデンは現実を直視していない理想主義に走り過ぎた国だからなのでしょうか?

 もし事実がその通りであるなら、私にもスウェーデンのエネルギー政策に対するわが国の論調が理解できます。けれども、私はこのいずれもが正しい理解だとは思いません。もっとはっきり言えば、いずれもが間違っていると思います。スウェーデンの科学技術力や経済力については、わが国のまとも専門家はそれを正しく理解しているはずですし、スウェーデンの原発技術にいたっては、わが国の原子力専門家をはじめ世界の原子力の専門家がその技術レベルの高さを最もよく知っているはずです。それでは、なぜ、スウェーデンは、わが国のジャーナリズムや原子力関係者の一部の言葉を借りれば、エネルギー政策で“迷走”したり、“苦悩”したりしているのでしょうか?

 それはスウェーデンが「現実を重視する国」であって、エネルギー問題の現実を直視し、それを基に将来のエネルギー体系のありかたを長期的に真剣に考えているからなのです。残念ながら、わが国は「目の前の現実」の対応に追われ、現実を直視してこれからの数世代が必要とするエネルギー体系のことまで考える余裕がないように思えてなりません。あえて、“苦悩”という言葉を使うとすれば、スウェーデンは、わが国のように、現在および近未来のエネルギーの「供給量」で苦悩しているのではなく、自らに厳しい条件を課して2010年以降のエネルギーの「供給の質と量」を修正するために苦悩していると言えるでしょう。

 スウェーデンのエネルギー政策で注目すべき重要な点は原発に依存する現在のエネルギー体系を、可能ならば「原発に依存しない、環境にやさしい、持続可能なエネルギー体系」に変えて行くというエネルギー体系の修正です。スウェーデン政府はエネルギー政策が環境問題と密接なかかわりがあることを十分認識してきました。その上で、原発を段階的に廃棄していこうとするわけですから、スウェーデンのエネルギー政策の当面の大きな柱は「電気の合理的利用、省電力および省エネルギー」です。めざすところはこれまでの「集中型エネルギー供給システム」からローカル・エネルギー主体の「分散型エネルギー・システム」への転換です。この政策を実行に移す社会的な前提としては、産業構造、交通体系および家庭など社会全体の電気の利用方法を見直す必要があります。そして、必要ならば、法の改正等の社会システムの変更を伴うので、政府機関を挙げての協力と産業界および国民各層の協力が必要となります。これらの十分な協力があって初めてスウェーデンの意図する脱原発が可能となるのです。

 私はこれまでに、わが国のエネルギー関係者やジャーナリストをはじめ、エネルギーに関心を持つ一般の方々まで様々な人々からスウェーデンのエネルギー政策について質問を受けました。私がおもしろいと思ったのはそれらの質問の大部分が

   ●スウェーデンは本当に脱原発ができるのか?
   ●その場合の代替エネルギーは何か?

の2点にみごとなまでに集中していることでした。

 これらの問いに対する私の答えは前述したとおりです。わが国のジャーナリズムやエネルギーの専門家はわが国の狭い視点のみで、スウェーデンのエネルギー政策を分析し、論じているため、「スウェーデンのエネルギー政策が福祉政策と連動している」という最も重要な視点が完全に欠落していますし、「エネルギー政策が環境政策をはじめとする国の他の重要な諸政策とも連動している」という視点もほとんどありません。このことはわが国の縦割り行政のために、わが国のエネルギー政策が福祉政策とは連動しておらず、国の他の政策とも連動してるとはいい難い状態にあることを意味しています。

 スウェーデンのエネルギー政策について、私がここで、もう一度強調しておきたいことは「スウェーデンが長年かかって築き上げてきた福祉社会を維持し、発展させるために、エネルギーが必要であり、その福祉社会に適したエネルギー体系が必要である」ということです。1985年のエネルギー政策ガイドラインには「スウェーデンのエネルギー政策は福祉社会に貢献しなければならない」とはっきり書いてありますし、さらに

    ●経済、産業の持続的な発展に貢献しなければならない、
    ●失業を増やしてはならない、
    ●社会的、経済的な機会を均等に与えなければならない

と明記されています。当然のことながら、環境への配慮も明記されています。