市川市文学ミュージアムで開かれていた永井荷風展に行った(一、二枚目の画像は、そのチラシの表・裏)。
知ったのは昨年(2017)の東京人12月号に載っていた広告からだが、このところの寒さにかまけて延び延びになっていた。昨年秋から開催されていたが終わり近くになってようやく出かけたのである。
「荷風の日記「断腸亭日乗」起筆百年を記念して」、とあるが、たしかに断腸亭日乗は大正六年(1917)9月16日から始まっている。その第一巻のはしがきに次の一文が載っている。
『此断腸亭日記は初大正六年九月十六日より翌七年の春ころまで折々鉛筆もて手帳にかき捨て置きしものなりしがやがて二三月のころより改めて日日欠くことなく筆とらむと思定めし時前年の記を第一巻となしこの罫帋本に写直せしなり以後年と共に巻の数もかさなりて今茲昭和八年の春には十七巻となりぬ
かぞへ見る日記の巻や古火桶
五十有五歳 荷風老人書 (荷風印)』
荷風の手帳が展示されていた。そこまでは確かめなかったが、上記のような手帳だったのであろうか。
市川時代の荷風が愛用していた買物カゴも展示されていたが(二枚目にその写真がある)、戦後の物不足と、見かけはもう余り気にしなくなった荷風の心情がしのばれる一品である。
荷風展は、たしか十年ほど前に世田谷文学館で開かれたと思うが、それ以来の企画のような気がする(記憶に誤りがなければ)。こういった展示会では、様々なものが展示されるため、あまり記憶に残らないが、そのときは、昭和11年(1936)一月三十日の断腸亭日乗の該当部分が開かれて展示されていたのが記憶に残っている。過去に関係のあった女性を列挙した有名な箇所である。
今回のサブタイトルが「荷風の見つめた女性たち」であるが、その女性たちの多くはそこに記載されている。中でも断腸亭日乗にもっともよく登場し、荷風のこころを捉えたのは、関根歌であろう。
戦後、荷風は、市川に住み、随筆「葛飾土産」などからわかるように、散策好きをここでも発揮し、あちこち歩いている。市川での住居は四箇所にわたっているが、京成線八幡駅近くが終焉の住まいである。
参考文献
「新版 断腸亭日乗」(岩波書店)
「荷風随筆集(上)」(岩波文庫)
「東京人 特集 永井荷風」⑫december 2017 no.390(都市出版)