ホワイトシェパード・アリエスの日々 ≪一雲日記≫

いつまでもどこまでも一緒に歩こう!

遺伝子の旅・その4

2010-08-15 | 2~3歳
 だいぶフカフカの緑になりました。ヤツもごきげん

 それキャッチ!・・・大げさに飛びすぎて失敗 

 ざざ残念

 先日、アリエスも遺伝子検査を受けた。原理的には各臓器で解析可能だが、私の選択した検査会社では頬粘膜スワブ・・・頬の内側を綿棒でこすり、そこについた粘膜の細胞をサンプルとしていた。細胞を集めて物理的化学的処理により細胞膜や細胞質を除去、さらに核を壊してRNAを抽出する。DNAが全部の設計図ならRNAは実際の建築現場で使われる図面、といったところだろうか。

 細胞内では二重らせんがほどけてDNAが複製され、その塩基配列をRNAが転写(コピー)・修飾を施してアミノ酸へ翻訳。生体内では通常、DNA→RNAと遺伝情報が伝えられる。検査では、細胞から抽出したRNAに逆転写酵素を作用させてDNA(cDNA)を合成する。cDNAは元のDNAにあった余計な(本当は余計なんかではないのだが)図面が除かれているので、実際にアミノ酸を指定する塩基配列を知るのに便利だ。あるはずの塩基が欠失していたり別の塩基に変わっていたりすると、そこで指定されるアミノ酸もできあがる蛋白も別物になってしまい、それは細胞の中で従来果たすべき役割を果たせなかったり不具合を生じることになる(もちろん逆もあり得るが)。遺伝子検査の場合、疾患を起こす遺伝子がDNAのどのあたりにあるか分かっているので、そこらへんの塩基配列を挟み込んだ領域を集中して調べることになる。

 cDNAはPCRという手法で、調べたい部分をたくさん増幅して数を増やす。こうして得たPCR産物を特殊なゲルの中に入れて電気で押し流してやると、塩基数の違いにより流れ止まる位置が変わる。細かく条件を変えてやれば、塩基が少し足りない(遠くまで流れる)とかが分かる。また、DNAの塩基配列をひとつひとつ読み出したり、限りなく維持したりすることもできる。

 犬には抗フィラリア薬イベルメクチンに代表される薬物中毒をきたしやすい遺伝が存在し、その責任遺伝子はMDR-1と呼ばれる。MDR-1の遺伝子産物はp-gpという糖蛋白で、ある種の薬剤はこのポンプのような役割をするp-gpによって細胞の中から外へ運び出される。中枢神経にも分布しているので、MDR-1に異変が起きているとそこでの薬物濃度が異常に高くなり、副作用としての痙攣などが起きる。世界的にみればホワイトシェパードでも、他犬種で見つかっているのと同様に4塩基欠失が報告されているようだ。

 検査の参考文献では、コリー系統の犬種の血縁をいくつか調べている。そしてこの研究の中でMDR-1に変異が見つかった系統は100%、遺伝的分離が起こる以前に大ブリテン島に生息していたと結論付けている。ちょっとの検査で、「うちの子」の祖先の姿が垣間見える。

 かつて、そしてたぶん今も、生物は遺伝子や染色体の変異や組み換えを繰り返し、苛酷な環境に絶えて生き延びてきたと考えられている。遺伝的に不利な内容を持った生物は、生き残れなかったかもしれない。だが現在の人間は、自然の神秘に遠く及ばないまでも、それを調べる手法を知り対処の手立てを持っているものもある。異様に発達した大脳皮質と、破壊行動に走りがちな知識を、古代からヒトと共存してきた生物を守るためにも、有効に使えればいいなと思う。