goo blog サービス終了のお知らせ 

杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

彼女の家計簿

2023年11月25日 | 
原田ひ香(著)光文社(刊)

家庭に恵まれなかった里里は、シングルマザーとなって娘と暮らす。過去に囚われる晴美は、女性の自立を援助する団体の代表を務める。母親から棄てられた朋子は、かたくなに家族を否定しながら生きる。戦地から戻った夫とすれ違う加寿は、大切なものを信じて家を出る。すべては彼女が必死に生きてくれたおかげなのだ。あたしもまた、誰かにつながるような生き方をしたい。女がひとり、必死に生きてきたその証 その家に遺されていたのは、日々の暮らしが記された家計簿。そこには「男と駆け落ちして心中した女」の秘密が隠されていた。
(あらすじ紹介より)


里里は不倫相手の子供を産み、シングルマザーとして娘の啓を育てています。
里里の母・朋子は娘に愛情を持てない人物として描かれます。娘が不倫の子を産むことに反対し、孫が生まれても会おうともしません。彼女にとって、娘の生き方は「みっともない」ので自分とは関わりがない者として徹底して受け入れようとしないのですが、それには彼女の生い立ちが関わっていました。

晴美は女性を助けるNPO法人「夕顔ネット」の代表です。
新しく建物を建て替えることになって前の土地と建物を所有していた加寿の荷物を整理していて彼女の「家計簿」を見つけたことで里里と出会います。

加寿は里里の祖母で朋子の実母でした。先代の代表の頃からNPO法人を陰で支えてきた女性で、彼女が亡くなった時に土地と建物を譲ってくれていました。

家計簿には簡単な日記も綴られていて、晴美は遺族に渡そうと朋子に送りますが、朋子は読みもせず里里に送りつけます。
加寿は男と駆け落ちしたことになっていたため、朋子は母を許せずに生きてきました。夫にも心を開くことができずに離婚し里里のことも愛せずにいたのです。

里里は、啓を心から愛していますが、自分が母から愛情を受けられずに育ったことで、娘の子育てに不安を感じていました。また、啓までも自分のように根無し草のようになってしまわないかと案じてもいました。

そんな彼女が加寿の家計簿を読んだことで、祖母が愛情をもって朋子を育て愛していたことを知り、祖母の愛情が自分に、そして啓にも繋がっていると実感します。
初めは祖母が母を捨てて駆け落ちするような酷い女性だったのかと疑った里里でしたが、家計簿の中の日記を読むうちにそうではなかったと悟るのです。

実は朋子は父親の亡くなる間際の告白を聞いて、加寿がいなくなったわけを知っていました。それでもなお、戻って来なかった母を恨み続けていたのです。

加寿の家計簿からは、戦前から戦後の厳しく苦しい生活の様子が浮かび上がります。姑に仕える様は現代の女性には想像もできないのではないかしら。戦地から戻った夫が定職にもつかず家で酒浸りになり、そんな息子を姑も責めないというのも理不尽ですが、当時の感覚では許容されるのでしょう。
代用教員となって家計を支える加寿は、悩みや愚痴を聞いてくれる同僚の教師に惹かれるようになり、遂には彼に駆け落ちを持ち掛けられます。しかし断るつもりで家を出た加寿を家計簿を盗み見していた夫が追いかけてきて谷に突き落とされてしまったのです。夫は妻が家出したと偽り、そのために家に戻ることもできなかったのが真相でした。夫の方も戦地でのトラウマなり、家長としてのプライドなりが邪魔していたのかもしれませんが、何より加寿自身が、教師として働くことに誇りと生き甲斐を見出していたのが夫婦にとって不幸の要因になっていたのかもね。

家計簿が縁で里里と親しくなった晴美の過去も登場します。
結婚を約束した恋人に婚約者がいたことがわかり、さらにその彼女が目の前で自殺してしまったことで晴美の人生は大きく変わります。彼女に手を差し伸べてくれたのが法人の前代表でした。以来のめりこむように活動に没頭してきた晴美にとっても、里里と一緒に加寿の人生を紐解いていくうちに、前に進む勇気をもらうのです。この元恋人はけっこうクズ男なんだけどね。😔 

夕顔ネットの経理をしている古参の曽我は、晴美が代表に指名されたことで関係がぎくしゃくしていましたが、彼女なりに何故自分ではなく晴美が選ばれたのかに思い至り円満に身を引きます。

夕顔ネットにやってくる女性の一人、みずきは元AV女優です。(このNPOは水商売をしていた女性たちの次の身の振り方を援助する団体なのね。)資格も何もない彼女にコンピュータープログラマーの里里がボランティアでパソコンを教えるようになり、晴美の申し出を受けてNPOを手伝いビルに住むことになります。

これまで母と正面から向き合うことを避けてきた里里でしたが、啓を連れ、晴美にも同行してもらって朋子に会いに行きます。頑なな母の心を開くことが出来なかったと感じる里里でしたが、晴美に指摘されて祖母の気持ちが母に伝わったことに気付きます。

色んな事情を抱えて、でも一生懸命に生きている女性たちの物語でした。
この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
«  | トップ | 雨を告げる漂流団地 »
最新の画像もっと見る

」カテゴリの最新記事