AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

母指CM関節症と母指内転筋症の針灸治療 

2021-12-29 | 上肢症状

元のブログタイトルは、「母指CM関節症には母指内転筋停止部の刺針」だったが、筆者は母指CM関節症と母指内転筋症を混同していたので、上記タイトルに変更するとともに、本文を大きく変更した。

1.母指CM関節症
 
1)局所解剖


母指は、末梢側からIP→MP→CMの3関節からなる。
CM関節とは、carpo-metacarpal  joint すなわち中手手根関節のことであるが、第一中手骨と関節するのは大菱形骨で、本関節は大菱形骨(鞍(くら))中手骨(人)がまたがっているような形状をしていることで母指の大きな関節可動性を可能にしている。母指球には多くの筋が停止するので、親指には大きな力を入れることができる。そうした中にあって母指CM関節症にとって臨床上重要となるのが、母指内転筋や母指対立筋である。


①母指内転筋


第2中手骨を起始とし、母指MP関節部に停止する筋で、母指を内転(示指側に近づける)作用がある。手の合谷部においては、手背側と手掌側の中心に位置する深部筋である。規定の合谷位置ではなく、第一中手骨際に寄った処になる。深刺して第一背側骨間筋を貫き、母指内転筋に入れる。

②母指対立筋

母指対立運動(母指頭と小指頭を接触させる動作)の際の、母指運動の筋肉の動き。
魚際(手掌部。第1中手骨中点の橈側、赤白肉際に取穴)が刺針点。
魚際の名称は、母指球を魚に例えた時、そのヘリに位置するところからきているという。魚際から直刺すると、短母指外転筋→母指対立筋→短母指屈筋→母指内転筋と、母指球構成4筋を刺針できる特異的な部位。母指球筋のオーバーユース時、魚際に圧痛硬結が出やすいことが理解できる。

 

 

 

 

2)母指CM関節症の病態生理
本症は変形性関節症の一種で、更年期以降の女性に多い。
靱帯弛緩 →関節滑膜の炎症・腫脹→軟骨摩耗 →関節包弛緩 →関節部の骨棘形成と亜脱臼 →母指基部が出っ張る 
 

3)母指CM関節症の症状
ビンのフタを回す、洗濯バサミや爪切りをはさむ、手をついて立ち上がる、といった動作で痛みが出やすい。
 

4)現代医学的治療
安静により痛みが改善する者も多い。手術が必要となる者は2~3割。リハでは母指内転筋ストレッチが重要。
 
5)針灸治療

母指CM関節症の、部分症状としての内転筋症や母指対立筋症にたいしては針灸が著効。詳細後述。


2.母指内転筋症
 
1)病態
母指CM関節停止部筋に緊張はあるが、変形や亜脱臼がほぼない状態。母指内転筋症との名前はマイナーだが、母指CM関節に変形や脱臼のない初期の母指CM関節症とみなすことができると思える。要するに軽度な母指CM関節症。

2)症状
母指内転動作を酷使する理容師や美容師や庭師が障害を受けやすい。負荷をかけた母指内転運動で、合谷(第1・第2中手骨底間)が痛む。
     

3)初めての母指内転筋症の経験と考察

合谷深部ないし魚際深部が痛むと訴える患者が、これまで何例も来院していた。私が鍼灸初心者だった頃、患者の訴える症状部である合谷、あるいは魚際に刺針したが、さっぱり改善せず苦労した。かなり後、それは母指CM関節症という疾患であることを知った。しかしCM関節にしてはCM関節の脱臼所見がないのが不思議だった。

ある時、またも同様の患者が来院した。通常の刺針では治せないことを自覚していた。合谷の浅い押圧では圧痛がなかったので明らかに表層筋ではない。となれば問題となる筋は、母指内転筋(=合谷)だろう。母指内転筋は、通常合谷から深刺しても当たるが、母指内転筋の停止部に当てるとなれば、第一中手骨際から深刺する必要があり、刺針した状態で母指を内転運動するよう指示。すると症状部に一致した再現痛が得られ、直後から症状も大幅に改善した。

なお書で調べると、CM関節症で障害を受けるのは母指内転筋であるが、母指対立筋のチェック(母指先を小指先に近づけ)、短母指屈筋のチェック(母指の掌側外転)も母指安定化に関わっているので、調べた方がよいと記されていた。

母指内転筋の停止は母指基節骨底内縁であり、母指内転筋付着部炎と判断した。結局、母指CM関節症といっても、痛み自体は筋付着部炎によることも多いことが予想され、針灸は有効と考えた。

後日、別の患者で、母指CM関節症が来院。高齢者で杖を持った状態で母指を捻ったとのこと。そのMP関節は変形していたのだが、上記合谷運動針を行うと、痛みは半減させることができた。

 

 

 

 

 

 

 


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