現代針灸治療

針灸師と鍼灸ファンの医師に、現代医学的知見に基づいた鍼灸治療の方法を説明する。
(背景写真は、国立市「大学通り」です)

膝OAでの関節包刺針

2021-12-31 | 膝痛

変形性膝関節症(膝OA)は、従来から針灸の適応症とされている。事実、整形での理学療法や神経ブロック療法と比べてもよく効くと思う。ただし高度な膝OAでは、針灸治療でもあまり症状軽減しない。やはり80歳以上になると多くなる重度の膝変形では、針灸による軟部組織を刺激対象とする方法では対処できない。針灸守備範囲外となる。そうなると整形外科での骨切り術や膝人工関節への手術が適応になるケースが出てくる。

針灸治療を実施するにあたり、変形性膝関節症という病名だけでは治療方針が定まってこない。以下に本症の進行に伴う症状悪化を示した。針灸が働きかけるのは膝関節負荷増大による筋々膜痛というあたりが主要ターゲットになることに異論はないが、筋刺激にはならない内膝眼・外膝眼への刺針、すなわち関節包刺針も有効となる場合が多く、その理由について考察する。

1.関節包の痛み



1)関節部での知覚神経はどこも均一に分布しているわけではない。骨は痛まないが骨膜は痛みを感じる。発生学的に関節部において骨膜は関節包に変化したこともあって、関節包も痛みを感じる組織である。関節包は腱筋につながっており、関節と連動して牽引・収縮される際に痛む。

2)関節包は外層の線維膜と内層の滑膜から構成される。線維膜は強靱で知覚神経が分布する。滑膜は血管に富み関節液(=滑液)を産生分泌する役割がある。この関節液は、関節の潤滑油および栄養液として機能している。なおヒアルロン酸も滑膜から分泌され、関節液の粘性を高めることで関節の滑りをよくしている。

 

 

3)関節裂隙への深刺が関節包刺激となる。針灸臨床で多用されるのは、内膝眼・外膝眼といった穴であろう。
膝蓋骨下縁で膝蓋腱の両側部は、大腿骨と脛骨の隙間で、内外の半月板や前十字靱帯が存在する部である。膝伸展位で、この部から直刺すると針は膝蓋下脂肪体→関節包(関節線維膜と関節滑膜)→関節腔と入る。その時、針先が線維膜を刺激すると処でもあることから、筆者は治癒機転が働くと考えている。

膝蓋下脂肪体が増殖し、隆起している者がある。これは膝関節を防衛するためのクッションを増やしている状態であり、この所見は膝関節が脆弱であることを示唆するものと考えている。

 

 

4)膝関節が腫脹したり軟骨が摩耗したりする頻度が長期におよぶと、膝の動きが悪くなり、膝のROMは狭くなり、かばうために筋の柔軟性が減少してくる。とくに筋の骨付着部に痛むようになる。膝関節周囲の関節包や関節周囲に付着している腱、筋肉の異常、傷害による問題は、痛みをたらすという意味で、重視すべきである。このたぐいの硬結圧痛は、膝蓋骨周囲の外縁、内外関節裂隙、鵞足部に出現しやすい。

 

2.立位での内膝眼・外膝眼刺針

膝痛の鍼灸治療は、普通は臥位で行うことが多い。しかし膝痛は臥位時ではなく、立位や歩行時に起きるのが普通であることから、反応点(≒筋硬結)を発見する体位は、臥位よりも立位が適切であることを十数年前に発見した。

ある膝OA患者で、仰臥位で圧痛点を探して刺針施灸を6回したが、思うような効果が現れなかった。そこでベッド上に立たせ、改めて膝関節周囲を触診してみると、これまで分からなかった圧痛点を多数見付けることができ、その都度単刺を行ってみる(片膝あたり計5~10カ所)と、治療直後に歩行時痛が軽減したのだった。膝OAは、「軟骨変形が病像の中心なので、治療効果をすぐに求める必要はなく、毎日施灸することで3週間程度経ってからゆっくり効いてくる」との思いが常識となっていただけに、このような体位で行う治療が即効的に効くことがあることに驚いたことが契機になった。

立位で内膝眼・外膝眼の反応点を探ると、仰臥位で探るよりも圧痛が発見しやすくなる。立位になった被験者はその姿勢を保つため、大腿四頭筋を緊張させることで膝蓋骨も挙上することが、両穴を探りやすくなるのだろう。四頭筋が緊張することで膝関節包も緊張する。緊張状態にある関節包を刺針することも効果を生む秘訣となるだろう。

 


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