AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

臓腑の官職 ver.1.1

2023-08-25 | 古典概念の現代的解釈

古典「素問」霊蘭秘典論では、臓腑の機能を古代中国の官職に例えている。臓腑の機能は、これだけにとどまらないが官職に例えることで、親しみやすくなっている。臓腑の官職については、これまでにも大勢の人が説明しているが、私も整理してみることにした。
なお官職の説明の最後は、ほとんどが「○○出ず」となっている。これは出ないという否定形ではなく、どうして出ないことがあろうか、という反語表現になっている。


  ①肝    将軍の官                                        
  ②胆    中正の官
  ③心    君主の官
  ④小腸   受盛の官
  ⑤脾    倉廩(そうりん)の官 
  ⑥胃     同上
  ⑦肺    相傅(そうふ)の官 
  ⑧大腸   伝導の官
  ⑨腎    作強(さっきょう)の官 
  ⑩膀胱   州都の官 
  ⑪心包   臣使の官 
  ⑫三焦   決瀆(けっとく)の官 

 
 
1.肝        

将軍の官、謀慮出ず   

肝は「月」+「干」で、干は幹の原字。身体の中心となる幹のことでその重要性が知れる。「謀慮」とは人間の思考のこと。
将軍が君主の下で全体を統率するように、肝は身体中央にあって思惟・精神活動に深く係わるとのこと。
肝は木の枝葉のように、のびのびと伸びているのがよく、この状態であれば気を身体中に巡らせることができる。すなわち気合いを入れた状態。
「肝」の機能が失調すると情緒が不安定になる。とくに肝の「疏泄機能」(全身に気を巡らす機能)は人間の精神状態に非常に影響されやすく、ストレスを感じるとすぐに失調すやすい。
  


2.心    


君主の官、神明出ず

「心主血脈」ともいい、血液の運行を制御する意味になるが、より重要なことは、心は君主のように一国の統帥の位置にあり、協調統一的な生命活動を維持するための「神明」すなわち神のような英知を生むことである。


3.脾・胃      

倉廩(そうりん)の官、五味出ず


脾と胃は不可分の関係があって、胃は受納をを主どり脾は運化を主る。内経では「脾と胃は膜をもって相連なる」とあり、脾胃は不可分の関係にあることを指摘している。

「倉廩」は米殻の倉庫、「五味」は気血に化生する源のこと。胃から分泌する津液により飲食物を消化をして気血に変換し、五臓に送り届ける。


4.肺     

相傅(そうふ)の官、治節出ず

「相傅」とは補佐の意味。ここでは君主である心の補佐官のこと。「治節」とは肺の主な生理機能を包括的に説明したもので、肺が呼吸運動を調節することで、同時に全身の気機(昇降出入)が正常に行われて血液の循環も維持され、津液の代謝も管理・調節されるといった意味。

 

5.腎    

作強の官、伎巧出ず
 
「作強」とは、重労働に耐える強者、「伎巧」とは聡明で智恵にまさり精巧多才なこと。

作強の官とは、腎が他臓器の作用を促進することを意味する。腎のこのような作用は、一口でいえば活力の源で、腎は精を蔵し髄を生む結果、足腰を強化し生殖や生長を担うものとなる。

※作強は、もともとは作疆だったのが、書き写すうちに作強に変化したとする説がある。「疆」はあまり馴染みがない漢字だが、中国北西部辺境にある新疆自治区というような地域名で使われる。無理にやらせる、境界といった意味がある。作疆も<無理にやらせる>といった意味となる。


6.心包    

臣使の官、喜楽出ず

「臣使」とは君主の代行として、心に代わって喜楽を伝える役割。

 

7.胆        

中正の官、決断出ず        

「中正」とは不偏の意で、公平、正確の意味を含み、「決断」とは決定、判断のこと。公平中立な立場の役人である裁判官で正邪を分ける役割。腸道と膀胱中の糟や排泄物とは異なり、胆汁はけがされていない。このことから不正に染まることがないので、「胆は清浄の腑なり」ともよばれる。

※肝は計画、胆は実行され、戦術の決断は、胆に依拠して初めて下される。

 

8.小腸   

受盛の官、化物出ず
 
「受盛」とは、受け入れ器に物を盛ることで、予算配分する役人のこと。「化物」とは、消化して変化させる意味で、胃が消化し脾が吸収した飲食物の残渣の中から、さらに有用なものを吸収する一方、不要な水分を膀胱へ送って小便とし、不要な固形のかすを大腸に送り大便とする。小腸の機能が失調すると、これらの分別が不十分なまま大腸に送られ、下腹部痛や下痢などの原因となる。

 

9.大腸   

伝導の官、変化出ず


「伝導」とは、大腸が糟粕(しぼりかす)を輸送する通路。「変化」とは、糟が変化して糞便となって体外に出し、腸内にとどめないこと。

胃で消化したものが小腸で更に消化吸収され、その糟粕が今度は大腸に集められ、糟粕を糞便に変化する。
大腸が失調すると、腹鳴や下痢や便秘といった排泄障害がみられるようになる。

 


10.膀胱    

洲都の官、津液蔵す


「州都」の原意は中州(川の砂州)に住居し得る場所で、ここでは膀胱が、水(小便)を貯蔵し、一定量集まると排出する。これを管理する地方(体の下部にあるので)の長官。
なお膀胱と表裏をなすのは腎で、小便は、腎の気化作用により作られ、膀胱に送られる。ここでの気化作用とは、水が気に変化することをいうが、具体的には腎が温められて腎水は水蒸気として上にのぼり、やがて冷やされて雨となって腎水に戻るという原理に基づく。
   

11.三焦    

決瀆(けっとく)の官、水道出ず

「決」とは、疏通状態、「瀆」とは溝。「決瀆」とは水道を疏通すること。三焦は溝を切り開き水を流す官吏に例えらる。体内の水液を上下に流通し、体外に排出することを管理する。上焦で病気を治せないなら、水は胸に溜まる、中焦では胃に水が溜まる、下焦ならば水は二便が乱れる。