AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

慢性気管支炎と気管支喘息に対する治喘の強刺激 ver.1.1

2022-05-21 | 胸部症状

2006-04-08 01:48:16

1.慢性気管支炎の概要

気管支炎には急性と慢性がある。ただし急性気管支炎は医療機関での治療が効果的なので、針灸で取り扱うのは慢性にほぼ限られてくる。なお慢性気管支炎の診断は、検査数値では決まらない。主訴が咳嗽・喀痰であり、「痰の多い状態が年(特に冬場に)に3ヶ月以上毎日あり、2年以上続く場合」と定義される。
慢性気管支炎の病態生理は、文字通り気管支の炎症で、気管の改変が起こり、気管支の粘液分泌過剰となる状態である。40才以上の喫煙者に好発。
なお慢性気管支炎・肺気腫・気管支炎は呼吸通路の狭窄による呼吸障害という点で共通性があり、一括して慢性閉塞性肺疾患(COPD)とよばれる。

気管支拡張症との鑑別:咳嗽・喀痰は気管支炎と同じ。多量の痰と血痰が特徴。慢性気管支炎は気管支全体の破壊なのに対し、気管支拡張症は中等気管支の変性拡張。
肺気腫との鑑別:老人男性の喫煙者に多いという点は慢性気管支炎と同じ。ただし肺気腫の主訴は息切れで、樽状胸郭を認める。肺の老化現象で、肺胞壁の破壊により、終末気管支以下の肺胞壁が以上に拡大し、縮まない状態。


2.気管支喘息の概要

気管支粘膜が炎症を起こして腫脹している状態がベースにあり、わずかな刺激で気管支痙攣と浮腫を起こし、咳・喘鳴・呼気性呼吸困難を起こす疾患。35才以下に多いのが外因性(アトピー性)で、35才以上に多いのが内因性(感染性)である。
内因性の方が難治である。

喘息様気管支炎との鑑別:本来が気管支炎であり咳嗽喀痰が主。しかし気管支からの粘液分泌増大し、喘息様の呼吸困難があるかのように見える。小児に多い。風邪の二次感染で生じ、治癒しやすい。(本症を小児喘息と判断して針灸を行うと、針灸治療成績が極端に上昇する誤りを犯す)

心臓喘息との鑑別:左心不全が進行すると左心に溜まった血液を拍出する力が弱まり、結果として肺鬱血状態になる。また血液中の水分が肺に浸出(=肺水腫)して息切れや呼吸困難が生ずる。とくに夜間は全身に貯留した体液が血管内に戻り、循環血液量が増えるので心臓に負担がかかり、夜間発作性呼吸困難を生ずる。この別名が心臓喘息である。心臓喘息は呼気吸気性呼吸困難であり、サラッとしたピンクの泡沫状痰を呈する。気管支喘息は呼気性呼吸困難を呈し、無色透明のネバッとした痰が出る。


3.慢性気管支炎と気管支喘息の現代医学的治療

両者とも対症治療となる。慢性気管支炎で、痰が出る時には去痰剤を、呼吸が苦しい時には気管支拡張剤を、熱がある時は抗生物質を投与。タバコをやめさせることが重要。気管支喘息は、気管支の炎症を抑え喘息発作を予防する目的で、必要十分な量の吸入ステロイドを使用。それでも発作が起きた場合には気管支拡張剤を使用する。


4.慢性気管支炎と気管支喘息の針灸治療

1)針灸の需要
慢性気管支炎を医療機関でも治すことは難しいが、コントロールは可能なので、針灸の需要はあまりない。一方気管支喘息に対しては、20年ほど前までは盛んに針灸が行われたのだが、現代医療の進歩により、吸入ステロイドを使用するようになってから、針灸来院患者は激減している。

2)針灸の方法
肺と気管支は副交感神経優位内臓であり、交感神経優位臓器と異なり、理論上は臓器関連のデルマトームに異常所見は検出できない。
副交感神経優位の時に症状が悪化する。現代医療でも症状増悪時に、気管支拡張剤(交感神経刺激作用)を使うように、針灸でも身体全体として交感神経優位にすることが治療となる。針灸治療は、交感神経緊張を緩める(=リラクセーション)のイメージが強いが、ここでの治療は交感神経緊張を亢める(=リフレッシュ)治療が必要となる。
たとえば入浴でリラクセーションには、ぬるめの湯に長時間つかるのがよく、リフレッシュには、立って熱いシャワーを短時間浴びるのがよい。また咳を鎮め、痰を排出させやすくする方法として背中を強打することは日常よく行われることである(逆に、悪心ある者に対して嘔吐を促すには背中をさする。これは副交感神経優位にして胃の逆蠕動を誘発させる)。
針灸も同様で、リラクセーションには伏臥位や仰臥位での置針法がよく、リフレッシュには太い針や熱い灸の短時間刺激がよい。

強刺激という立場から治療点はどこでもよいが、星状神経節を刺激する目的も兼ねて、座位にて大椎や治喘を刺激するのが適切である。具体的には中国針を用いての速刺速抜を何ヶ所か行い、灸ならば小豆第大の艾しゅ5壮である。淺野周氏は、温灸用モグサをつかっての透熱灸を推奨している(「北京堂」ホームページ)。

注意すべきは全体としての刺激量である。強刺激の治療は、あっさりと5分間程度で終わらせるべきで、これを越えると刺激量過多となる。治療直後は、よく効いて感謝されても、その晩に悪化して信頼を損ねかねない。これは新人針灸師がよくやる失敗でもある。

刺激を与えている最中は深呼吸をさせると促通効果が得られて治療効果が増す。喘息の誘発因子が肩こりのこともあり、肩こりのある者では、この治療も併用した方がよい。 

5.追加:大椎を冷やす道具(2022.5.21)

喘息発作時には大椎や治喘・定喘に強刺激を与える治療が効果的なことが知られている。喘息発作時は副交感神経優位状態であり、患者は起座位になると呼吸が楽になる(交感神経優位に誘導)することを患者が無意識的に自覚しているからである。老人に多いことだが銭湯で熱い湯船に入る際、その湯を桶ですくって自分の頸肩に何杯もかけたものだった。これにより交感神経優位に誘導すると熱い湯船に入ることができるようになる。

これと同じ理由で、暑い時期に涼む方法として、大椎あたりを冷やすことが知られている。ただ冷やすといっても冷やした濡れタオルでは、すぐにぬるくなってしまう問題があった。本日ネット検索をしていたら偶然に大椎あたりを冷やす装置(レオンポケット3)がソニーから発売されていたことを知った。板状の半導体熱電素子の一種であるペルチェ素子を使うもので、ある方向に直流電流を流すと、素子の上面で吸熱(冷却)し、下面で発熱(加熱)する。ただし冷却効率は低いのでワインクーラーにはよいが冷蔵庫に使うには力不足である。ペルチェ素子の金属板を直接ちょうど大椎あたりに接触させることで涼感を得るというアイデア商品だが、ソニーが販売しているので驚きだ。これも大椎刺激の効果にお墨付きを得た感じ。