AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

掌蹠膿疱症の局所刺絡治療

2011-04-12 | 皮膚科症状

掌蹠膿疱症の患者2名の針灸治療を行い、好結果を得たので報告する。


1.症例
頸痛を主訴として40才台女性患者が来院した。両手掌一面に、水虫のような鱗屑が十カ所にできていた。医師から掌蹠膿疱症だといわれている。痒みはない。足底にも同様の症状があったが手掌ほどではない。

実をいうと私は不勉強でこの時まで、この疾患を知らなかった。早急にネットで調べると、「原因不明だが免疫系に問題があり、感染性ではない」という内容だったので、とりあえず安心して施術することにした。

掌蹠膿疱症は、皮膚病であり、手掌や足底に圧痛硬結はみらないので、刺絡を思いついた。アトピー性皮膚炎に対して、局所の刺絡が効果的な場合があるので、本症にも両手掌からそれぞれ十カ所程度刺絡し、紙絆創膏で止血した。

1週間後再診、水虫様のカヒは半減していたので、同様の処置を実施。さらに1週間後来院し、2診目のさらに半分程度となった。しかし以降は来院休止となった。

後日、治療中止した理由を聞く機会があった。患者自身、掌蹠膿疱症に刺絡は非常に効果あることは認めるが、手掌からの刺絡は痛いので、治療されるのが恐怖だったと語った。
あれから約1年後、別人の掌蹠膿疱症患者が来院した。迷わず手掌刺絡を実施した。本例も手掌皮膚は非常に改善したのだが、痛すぎるという理由で治療3回で頓挫してしまった。
手掌部の刺絡は有効だが、痛いのが欠点である。刺絡ではなく、ジャンボローラーのような刺激ではどうなるか、工夫する余地はあるかと思う。 

2.掌蹠膿疱症とは
1)掌蹠膿疱症は手掌、足底を中心に発生する膿疱様の発疹を主徴とする疾患である。

2)皮膚所見:手掌、足底を中心に粟粒大から米粒大の無菌性の膿疱様の発疹が多発。この周囲にIgAの免疫グロブリンが沈着してる。発疹は手背、足縁、足背、四肢、体にも発生するが、乾癬様になるため、しばしば尋常性乾癬と誤診される。

3)本症の10%:胸鎖関節、胸骨と肋骨との間の関節を中心に激しい関節痛(IgAの骨関節部沈着による)
経過:増悪と寛解を繰り返しながら、次第に悪化する。痛みのために身動きができなくなったり、睡眠不足にもなる。

4)ビオチン 
これまで掌蹠膿疱症は、よく分からない疾患の一つだった。なお不明な面はあるが、免疫内科医前橋賢により、ビオチン(ビタミンB7)欠乏症が原因であり、ビオチン欠乏となる原因は、腸内細菌の悪玉菌優位にあるとの研究報告が提示された。悪玉菌優位になる原因には、抗生物質の長期投与、不良な食生活、長期の下痢、ヨーグルト過剰摂取(ビフィズス菌はビオチンを破壊する)などがある。
治療は、ビオチン内服+痒みがとれるまで希釈ステロイド外用薬となる。

5)異種タンパク
食物中のタンパク質がアミノ酸にまで分解される手前の状態が異種タンパクである(まれに歯科金属性の詰め物が唾液と反応してイオン化し、それが表皮や粘膜のタンパク質と結合して異種タンパクとして作用することもある)。とくに肉や卵に含まれるタンパク質は、分解されにくく、その形状を維持したまま腸管に到達し、これが腸内の悪玉細菌の好物となって、悪玉菌が繁殖する。さらに悪玉菌は腸内粘膜を損傷させ、その損傷した腸管粘膜から異種タンパクは内部に侵入しようとする。身体側はこれを異物と判断して、IgE抗体やIgA抗体を多量につくって阻止しようとする。この抗体が悪さをする。 

6)ストレス
ストレスがあれば免疫力低下するので、ストレス対策は種々の疾患治療に有効となる。脊柱や骨盤の左右差を整えたり、項背部の筋緊張を緩めることは、一定の意義はあるかと思うが、これは非特異的作用であり、メイン治療法とはならないであろう。

3.皮膚病と刺絡治療について
皮膚病については分からないことが非常に多く、それ以上に皮膚病の鍼灸というのも分からないことが多い。各所で様々な鍼灸治療が行われているが、治療自体に統一性は見いだせず。どの治療法であっても効く場合と効かない場合があるからである。

こうした状況であっても、皮膚疾患に対しての刺絡は、ある程度の有効性が見込めるもと考えている。刺絡には、血行改善のほかに毒素排出の意味がある。アトピー性皮膚炎に対して刺絡治療が行われており、これも効くことも効かないこともあるようだ。この場合、毒素とは蔡篤俊医師によれば、異種タンパクだということで、湿吸治療には、異種タンパクを排泄する作用があるという。

アトピー性皮膚炎が抗体産生過剰+皮膚セラミド異常という2つの問題をかけえるのに対し、掌蹠膿疱症は症状部位も限定され、抗体産生過剰のみ問題と捉えられる。これはアトピーに比べ、治療しやすいのではないだろうか。 

筆者の行った治療は、手掌への刺絡を数回のみであり、1回治療でも効果がみられた。出血量も少なかったので、異種タンパク排泄作用はあまりないと思えるが‥‥。掌蹠膿疱症は、アトピー性皮膚炎以上に刺絡が有効なことを経験する。