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日・中・韓 3つのバージョンのミュージカル「スリル・ミー」~上海ミュージカルの出待ちの日常

2024年01月10日 | エンタメの日記
2023年9月下旬に池袋の東京芸術劇場シアターウエストでミュージカル「スリル・ミー」の日本人キャスト版を観ました。「スリル・ミー」はオフブロードウェイをオリジナルとする俳優2人とピアノ伴奏のみで演じられるミュージカルで、韓国、日本、中国でも上演されている人気の演目です。
これで、韓国語、中国語、日本語、3言語バージョンの「スリル・ミー」を観たことになります。

【スリル・ミー観劇歴】
韓国語版:2012年7月銀河劇場 チェ・ジェウン×キム・ムヨル版(韓国語+日本語字幕付き)

中国語版:2016年上海大劇院中劇場、2022~2023年:大世界、共舞台

日本語版:2023年9~10月 池袋 東京芸術劇場シアターウエスト


近年ソウルの小劇場で上演されている韓国版は見たことはなく、韓国版と日本版は1回(1ペア)しか観ていませんが、3バージョンの違いを挙げてみたいと思います。

【韓国版】 2012年7月銀河劇場 韓国初演キャスト チェ・ジェウン×キム・ムヨル 
10年以上前に観たものなので記憶がちょっとあやふやです。
韓国初演キャスト版の「彼」と「私」は根本的に恋愛関係というよりは支配欲が勝っており、犯罪と司法を利用して目的を果たす知能犯で、「私」は自分の行いについて後悔していません。最後まで周りを欺き、「彼」を手に入れる完全犯罪を成し遂げたことに恍惚します。愛だけでは説明できない破壊的な人格が観客をぞっとさせます。「彼」と「私」の関係性は複数の解釈が可能で、「彼」×「私」ではなく、「私」×「彼」と解釈するほうが自然だったかもしれません。
冒頭で「私」が出獄する際に手に荷物を抱えているという演出があったような気がしますが、記憶違いでしょうか。

【日本版】 2023年9月 東京芸術劇場シアターウエスト
会場が小さいせいもあり、マイクの音量が入っていないのではと思うほど生声に近い状態で演じていました。そのことに驚きました。
キスシーンがあります。「私」は「彼」に対して恋愛的な意味で執着しており、「彼」もある程度それに応えているという演出でした。
「彼」と「私」は人間的な若さ・未熟さがあり、韓国初演キャストと比べると常識的な人物にみえました。
中国版と比べると日本版はピアノと演者の息が合っており、ピアノの音量もちょうどいいです。
舞台セットや照明がとてもシンプルなので、場面展開での俳優の力量が試されると思いました。

【中国版】主に2023年1月~3月、上海共舞台の最終クール。中国語タイトル『危険遊戯』
日本版の演出は、国内の著名な舞台演出家(栗山民也)が務めていますが、中国版は韓国人演出家の指導を受けており、クレジットには韓国側監督・演出と中国側監督・演出の名前が併記されています。上演許諾自体、韓国側から受けているのかもしれません。
中国版「スリルミー」にはキスシーンがありません。
同性愛を直接連想させるような俳優同士の身体的な接触、性的な関係を匂わせる演出は抑制されています。そのため、二人がどういう関係性であるかは色々な解釈が可能で、キャストによっても解釈が異なります。
また、快楽犯罪、子どもを殺すといった反社会的パーソナリティはぼかされており、人格自体の問題ではなく、若く未熟だったために過ちを犯したが、そのことについてはある程度後悔しているという演出にされています。つまり、道徳的に説明がつくキャラクターに修正されています。



中国の「スリルミー」ファンは、中国版の歌詞やセリフ、演出が変えられていることに不満を抱いており、全体的に辛口の劇評をよくSNSに投稿しています。
しかしながら、私は日本版を観たことで、中国版「スリルミー」には良い点がたくさんあることに気づくことができました。

中国版は、まずなんといっても俳優のルックスレベルが高いです。若い、高身長、スタイル抜群、顔がいいです。
そして、基本的に声楽を専門に学んでいるので、ミュージカル歌唱ができています。うまい人ほど滑舌が良く歌詞が聞き取りやすいです。

「スリルミー」に関していうと、中国版の方が舞台セット、照明がきれいです。
中国版は照明効果に助けられている部分がかなり大きく、舞台セットがきれいに見えるのも照明のおかげだと思います。
照明の明暗がはっきりしており、ブルー系のライトはとくにきれいです。
舞台では照明の配色や当て方によって、役者の心情表現を補うことが可能です。
日本版の舞台が白黒の紙漫画だとすると、中国版はカラーのウェブトゥーンで、日本版は生身の演技への依存が強く、中国版は設備・技術の応用がうまいです。


中国版「スリルミー」は「彼」が「私」を殴るシーンが2回あります。2回目は「私」が吹っ飛ぶくらい激しく殴ります。
この殴るシーンは中国版「スリルミー」の重要な見どころの一つで、リピーターはこのシーンになるとオペラグラスをすっと構えます。
日本版にはこの殴るシーンがないので逆にびっくりしました。

もう一つ、「スリルミー」に限ったことではなありませんが、中国ミュージカルのすごく良い点があります。
それは、チケットが取りやすいという点です。基本的に満席にならない公演が多く、平日夜公演は3分の1くらいしか埋まっていないこともよくあります。
そのため、自分が行きたいときにふらっと観に行くことが可能です。
そして、終演後には「出待ち」(SD/ステージドア)があります。
観客が少ないときは必然的に出待ちをする人も少なく、そういうときは上海ならではの楽しいボーナスタイムとなります。
俳優さんは早ければ終演から15分くらいで出てきて、出待ちをしているファンに写真を撮らせてくれます。タダでイケメンを間近で見ることができます。
大抵の場合「出待ち」を仕切る古参ファンがおり、俳優に気の利いた質問を投げかけてくれたりして、それに俳優が乗ってくると、舞台裏の小ネタを語るような屋外ミニトークショーが始まります。

「スリルミー」が上演されていた上海共舞台での出待ち風景。


「スリルミー」で「彼」を好演していたミュージカル俳優・趙偉鋼(チャオ・ウェイガン)。1991年生まれ、南京芸術学院出身、身長は180弱だと思います。芝居がうまく四肢の動きが非常にきれいな俳優です。
韓国ミュージカル「ヴァニシング」(VANISHING)中国版『消失』(2023年9月15日~11月12日 上海共舞台)での出待ち風景。ファンが頼んだポーズをしてくれます。


中国版「スリルミー」で「私」を殴るときの趙偉鋼はものすごくかっこよかったです。
「I'm Afraid」でのたうち回る場面では動きを旋律に絡めるのがうまく、動きに色気があります。歌よりも演技で観客を納得させられる中国ミュージカル界には珍しいタイプ。中劇場主演、大劇場助演クラスの俳優ですが、6歳年上のミュージカル女優と結婚したことを公表しており、そのことも好感度アップにつながっています。

趙偉鋼クラスのキャリアのある中堅俳優は、誰にでもサインをしたり、ツーショット写真を撮らせてくれるわけではありません。
古参ファンの誕生日など特別なケースのみサインやツーショットに応じているようで、オタクと俳優の信頼関係が垣間見える瞬間です。


劇場のすぐ近くの路上パーキングにいつも車を停めています。車までファンはお見送り。本人が運転し、たまに奥さんや仲の良い共演者を乗せて帰ることもあります。


中国の舞台にも良くないところはあり、その筆頭は観劇マナーです。
上演中の会話や盗撮はさすがに少なくなってきましたが、観劇中にスマホをいじっているお客さんは多いです。
各列2、3人はスマホをいじっている人がいて、スマホの明かりが気になります。
ただし、中国のミュージカルは席種が細かく分かれており、前列席になればなるほど価格が高く設定されています。つまり、前の列の人のスマホの明かりが気になるのは、自分が安い後列席に座っていることが原因の一つでもあるのです。もっとお金を出して前列席を買えばこの問題はある程度回避できるので、安い席で観る以上、仕方のないことだと思っています。
それに、本当にお芝居に引き込まれていれば周りの環境は気にならなくなるはずです。後方列まで引き込まれるような舞台に巡り合えることを願って、大抵いつも2階席で観ています。
カーテンコールは常時撮影可能で自動シャッターの音が劇場に鳴り響きシュールです。
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2 コメント

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こんにちは (はるみとまこ)
2024-01-16 12:58:27
もう、12年前になるんですね('◇')ゞ
あの、見てるこちらが緊張するような舞台はなかなかないですね。
昨年、久しぶりに見ましたが、何と!お昼ご飯を食べたせいか少し気を失いました(´;ω;`)ウッ…
尾上松也と廣瀬友祐、二人の俳優が好きだったので見に行きましたが、松也さんのキャラクターの幅の広さ、廣瀬くんのお尻が見事、この二つくらいしか記憶がありません(-_-;)
お話を集中して見たいときは、敢えて知らない人の方が良かった気がします。
なので作品としては12年前の方が衝撃でしたね。
はるみとまこさん (上海阿姐)
2024-01-16 23:44:09
こんにちは!あれから12年です。昨日のことのように感じますが、舞台の細かい点はかなり忘れてしまいました・・・「私」が荷物を抱えているのは記憶違いでしょうか・・・。
私も12年前の韓国初演キャストの舞台が一番衝撃を受けました。理論的には、あの12年前のバージョンがオフ・ブロードウェイのオリジナルに一番近いはずなのですが、実際にはどうなのでしょうね。
確かにスリルミー俳優さんに対する先入観がないほうが面白いかもしれません。韓国キャストでもう一度観てみたいですが、初演キャストの演出とはかなり変わっているようで、あの衝撃を超えるものに巡り合えるでしょうか・・・

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